71:ちょっとだけ、二人で話す時間を
きっとそろそろ帰るのだろうなと思ったタイミングで、俺はトイレに行くことにした。
するとシナンも俺の後をついてくる。
「……もしかしてシナンって、トイレも俺の護衛でついてきてくれているのか?」
「勿論だ。ベリル様もトイレに行く時は、必ずヴァイオレットがついていく。護衛がつくとはそういうことだ」
なるほど。
トイレまで……。
でも俺はまだしもベリルともなると、いつ何時狙われるか分からないからな。
そんなことを思いながらシナンと共にトイレに向かい、用を終えてトイレを出ると……。
ばったりノエルと会った。
「あ、ねえ、拓海くん」
ノエルが周囲を気にしながら声をかける。
「?」
「ちょっとだけ二人で話す時間、もらえるかな?」
そう言ってチラッとシナンを見る。
シナンは心得たという顔になり、指をさす。
「そこに階段の踊り場があります。俺が見張っておきますからどうぞ。でも短時間で頼みますよ」
ノエルはシナンに「ありがとうございます!」と言うと、俺の手をひいて踊り場へ向かう。
「どうした、ノエル?」
ノエルはまず封筒を取り出した。
「ここの住所と私のメアドを書いてあるから」
「!」
そっか。
連絡先の交換。
「ありがとう、ノエル。婚儀の招待状、必ず送るよ」
ノエルは「うん、楽しみにしている」と笑顔になる。そして……。
「拓海くんとの悪魔祓いの対話も、もう終わりだね。今日やった方法でダメだったらって、第二弾、第三弾も用意していたのだけど、使わずに済む」
「!? そんなに用意していたのか?」
「まあ、パパの職業が牧師だったから。そういう映画はつい見てしまうというか」
意外だった
ホラー映画とか、見るからに苦手そうなのに。
「ともかく、結局、私は役立たずで終わったけど……。ただ、久々に元いた世界の人と話せて、ホント、嬉しかった」
「それは俺も同じだよ。俺はまだこっちにきて日が浅いけど、ノエルはもう5年だろう? よく一人で頑張ったと思う」
「うわー、そんなこと言われると泣きそうになる」
ノエルは困ったように笑い、でもすぐに真面目な顔になった。
「……拓海くんと再会して、悪魔祓いの対話をして、そして今日……。あれは拓海くんではなく、モールだったのでしょう? どうしてそんなに頑張るのかと私に聞いたのは?」
そうだ。
そうだった。
モールの奴、ノエルを正妻に、ベリルを愛妾とか、とんでもないことを言い出して……。
「あれは本当にごめん」
「ううん。あやまらないで。おかげで気づくことができたから」
「?」
ノエルは「てへへ」という感じで頭を掻く。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『アオハルだな』
『それを我に問うか、拓海』
です。
ノエルは健気だな~。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






