44:出来レース
「拓海」
ベリルが来た!
俺はすぐにベリルを部屋に招き入れた。
今日のベリルはアッシュローズのネグリジェに、マロン色のガウンを羽織っていた。
ワイン色の髪によくマッチした色合わせだった。
いつも通り、椅子に腰をおろしたベリルは……。
「せっかくのホリデーシーズンなのに、任務につかせてしまいすまないな」
「俺はベリルの騎士なのだから、ホリデーシーズンだろうと関係ない。ベリルと一緒にいるよ」
「そうか……」
ベリルは視線を落とし、そして俺の方をゆっくり見た。
「……拓海がいた世界でも、皆、婚約者と結婚しているのか?」
「婚約者と結婚……。まあ、ある意味そうなるのかな? 明確に婚約しました、っていう人は少ない気がするけど、結婚までの準備期間を婚約期間と考えていいなら、確かに婚約者と結婚していると言えるのかな……? ただ、親が決めた相手と婚約して結婚する人は少ないと思う。お見合い相手と婚約して結婚するのも少ないかな」
「⁉ では皆どうやって結婚相手を⁉」
ベリルが身を乗り出した。
「学校とか職場、友達の紹介で出会った相手と恋に落ち、恋人同士になり、やがて結婚を考えるようになり……それで結婚……みたいな感じかな。あと未婚者同士が集まるイベントで出会い、恋人になり、うまくいけばそのまま結婚、とか。
……俺がいた世界では18歳から結婚できるし、俺は17歳ではあるけど、18歳ですぐ結婚するわけじゃない。だから正直、結婚なんて俺にとって未知の世界で、結婚に至るまでの流れとか、実体験じゃなくドラマとか映画で知った知識なんだけど」
「なるほど……。婚約者を自分の意志で選べるのだな」
「でも今回、ベリルも6人の候補者から選べるのだろう?」
「……選ぶというより、本性を見抜くに過ぎない」
「ということは6人の中で既に優先順位ができていたりするのか……?」
ベリルは頷いた。
6人の候補者は、5つの有力ヴァンパイアである、ピスタチオ家、クラウド家、ソルト家から4名。純血種の一族であるクロノス家とカラレス家からそれぞれ1名ずつとなっていた。
5つの有力ヴァンパイアであるジョンブリアン家は、ベリルの母親の実家なので候補からは外されていた。
「クラウド家の次男のクレメンスが、最有力候補と父上から言われている。その次がピスタチオ家の双子の兄弟・カイとレオだ」
「そうなんだ。……その3人のこと、ベリルは知っているのか?」
「5つの有力ヴァンパイアについてはすべて把握している。だからそれぞれの経歴は分かっているが……。夜会で挨拶をしたり、見かけたりはしたことがあるが、会話したことはないに等しい」
「もしその最有力候補のクレメンスの本性を見て問題がなかったとして、ベリルが好きになったのがレオだったら、レオを婚約者に選ぶことはできるのか?」
「それは無理だ。クレメンスを選ばない理由を父上に話せねばならない」
「じゃあ、本当に選ぶことができないんだな」
俺は思わず腕組みをした。
ベリルは静かに頷いた。
「でもさ、本性を見て問題なかったらきっといいやつなんだろう? だったらベリルのことを幸せにしてくれるよ」
俺の言葉にベリルは、テーブルにおいた両手をぎゅっと握りしめた。
「……そうだな」
ベリルは一度目を閉じ、深呼吸した。
「拓海、別荘の敷地内は魔法により夏の気候が保たれている」
「そうなのか⁉」
「レッド国において別荘とはそういうものだ。休暇を別荘で過ごす。それは今とは違う季節を楽しむため、わざわざ別荘に行くことを意味している」
「それは俺のいた世界とは少し違う感覚だ。別荘は避暑のために行くことが多い気する。あ、でも本当のお金持ちは世界各国に別荘を持ち、違う季節を楽しむのかな……?」
思案する俺を見て、ベリルが優しく微笑んだ。
「拓海が気に入っているその制服も、夏仕様を用意する必要がある。キャノスに用意させるから、どんなものが必要かまとめておいてくれ」
「でも、俺、魔力が効きにくい体質だけど、夏の気温を感じられるのかな?」
「夏の気候を保つために、外気を遮断する魔法がかけられている。その上で全力でセントラルヒーティングを稼働させている」
「……! なるほど。分かった」
それで会話は終わりだった。






