66:随分な茶番だ
ハネス大司祭はあの穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。
「ええ、もちろん。あの場で私が提案したことに、グレゴウス教皇は絶対に同意すると分かっていましたから。ヴァンパイアのあなたを、教皇はおろかにも信頼していましたから。まあ、私としましては、無防備な教皇をベリル様が手に掛けてくれないかと期待しましたが……ダメでしたね。でもそれも想定内。そんなことでうまくいくとは思っていませんでしたから」
「今日、『時間になっても出てこない。何かあったのかもしれない。踏み込みましょう』と言い出したのも意図的ですか?」
ハネス大司祭は嬉しそうに答える。
「あの部屋を悪魔祓いで使っていることに気づきまして。カメラを仕込んでおいたのですよ。映像はこの眼鏡に送られてくるので、リアルタイムで確認できます。丁度時間が過ぎたところで、上半身裸で起き上がり、何やら抱き合うような姿が見えました。ベリル様は大層拓海様を愛していらっしゃるようなので、浮気現場を目撃すれば……。逆上し、ノエルを手に掛けるかと思ったのですが……」
「拓海は浮気などしない。またも無駄足だったな、ハネス大司祭」
ベリルのこの言葉に、カチンときたのだろう。
ハネス大司祭は……。
「闇の力を操る魔族の末裔のくせに、偉そうな口を叩くな。グレゴウス教皇はお前により殉死する。そしてお前は牢屋行きだ。そして拓海は我々の手でモールとして覚醒し、お前の国を滅ぼす」
「随分な茶番だ」
ハネス大司祭がこちらを見る。
「茶番? 拓海、お前は今のこの状況が分からないのか?」
「ほう。我に会いたいと願っていたのではないか、ハネス大司祭。我の力でブラッド国とウルフ王国を滅ぼして欲しいと、願っていたのではないか?」
「……! まさか、モール……いえ、モール様、覚醒されたのですか!?」
ゆっくりと立ち上がり、グレゴウス教皇とハネス大司祭が座るソファの後ろに回り込む。
「そうだな。楽しそうな企みの話が聞こえてきたのでな。目覚めてみることにした」
「それは僥倖です。では手始めに、この目の前にいるヴァンパイアどもから始末されますか?」
「その前にまずはこの石頭の教皇に退場してもらおうか」
グレゴウス教皇の頭を掴む。
「やめろ、モール」
「拓海、戻ってきてください。そんなことはしてはダメです」
ベリルとキャノスに一瞥をくれ、笑みを浮かべる。
「拓海くん、やめて!」
ノエルが立ち上がろうとすると、ハネス大司祭がその腕を掴み、短剣を向ける。
「העברה לחדר האוכל של הארמון(消えろ)」
グレゴウス教皇の姿は一瞬でその場から消えた。
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2話目は8時台に公開します。






