43:新たなる動き
食事の後はロードクロサイトとどんな話をしたのか、『ザイド』の一味は今どこにいるのかなどを話した。
最後にベリルは俺を見てこう宣言した。
「森では不意をつかれたが、拓海が狙われていることを把握した。もう二度とあんなことが起きないよう、最大の警戒を払う。国境付近の警備も強化された。そう簡単に『ザイド』達は、この国に入ることも、出ることもできなくなる。私も拓海のことを全力で守るから、安心しろ」
俺はベリルの騎士なのに、守るのではなく、守られるって……。
そんな気持ちも一瞬沸いたが、こんな美少女に守ってもらえるなら……超ラッキーかもしれない。最大限の前向き思考で、俺はベリルに「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えた。
◇
『ザイド』襲撃の翌日以降、レッド家の邸宅の警備自体も強化されていた。
これまで誰もいなかったような場所、邸宅内の廊下の思わぬ場所、出入り口付近に騎士が配備されるようになった。
さらに、俺が魔人のような屈強な男を素手で倒した、その方法はボクシングというものだ、という噂はレッド家の中であっという間に広がった。するとボクシングの練習に参加する騎士がこれまで以上に増えた。アレンやカレンなどの召使い達まで休憩時間を使い、練習に顔を出すようになった。
騎士として訓練を積みつつ、俺はボクシングではコーチとして参加者を育てた。と、同時に特に成長が著しい何人かの騎士は、トレーナーとしても動けるように指導をした。
こうして日中は騎士として、夜はベリルの話し相手としての日々を送っていたある日の夕食の後だった。
いつも通り、食後のワインを楽しむために皆が別室へ移ると……。
ベリルが浮かない顔で、暖炉のそばに立った。
「……皆に連絡がある」
その一言で全員会話をやめ、ベリルのことを見た。
俺もココアが入ったマグカップを手にしたまま、ベリルに目を向けた。
ゆったりとした長袖のローズミスト色のドレスを着たベリルは、一つため息をしてから話し始めた。
「知っての通り、私はブルーノ家と、ブノワとの婚約を解消した。そしてそれ以降、父上のところには沢山の縁談話が持ち込まれた」
そう、だったのか……。
そんな話、一度も聞いたことがなかった。
「書類選考というか、身上書での選考は既に父上が終えた。そして絞り込まれた6人の候補者と、3日後から始まるホリデーシーズンを別荘で過ごすことになった」
ホリデーシーズン。
それは俺がいた世界でも存在した。だが休みという共通点はあったが、宗教が存在しないレッド国では、単にニューイヤー前後の2週間の休暇だった。
その休暇を婚約者候補の6人と過ごす……?
「父上はブノワの一件があったので、婚約者選びに慎重になっている。だから一つ屋根の下で共に過ごし、婚約者候補の人となりを見ろと言うことらしい」
なるほど……。
ベリルは手にしたグラスのワインを飲むと、さらに話を続けた。
「とはいえ、ただ一緒に過ごしても本性を見抜くことは難しい。だからいろいろイベントを仕掛けるらしい」
この言葉にはその場にいた全員が「?」という顔をした。
「つまり、デート中にトラブルを起こし、その時にどんな対応をするのか。偽の敵が現れた場合、どんな対応をするか。それを見極める感じだ」
皆、「なるほど」という感じで頷いた。
「別荘で共に過ごし、トラブル付のデートをして、本質を見極める。そして最終的に一名を婚約者に選び、発表する。レッド家としては本質を見抜くためのイベントみたいなものだ。だが6人の婚約者候補は、婚約者に選ばれるために競い合うものと思っている」
上流階級の婚約者選びって大変だな……。
それが俺の素直な感想だった。
「父上からは、別荘に滞在中、別途騎士を手配すると言われている。だが、私としてはできればお前たちに来て欲しいと思っている。せっかくのホリデーシーズンなんだが、私に付き合ってもらうことは可能か?」
ベリルの言葉にすぐにヴァイオレットが答えた。
「私はベリル様付きの騎士として、あなたの剣となり、盾になることを誓った身です。いかなることがあろうと、私はベリル様と共にあります。喜んでお供します」
それは皆、同じようで、その場にいた全員がホリデーシーズンをベリルと共に別荘で過ごすことに同意した。もちろん、俺もだ。
ベリルは「ありがとう」と微笑み、解散となった。
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