55:拓海くん、呆れている?
結局、あの後。
椅子を暖炉の前に移し、俺はそこに座り、ノエルの話を聞くことになった。
ノエルは幼稚園から高校まで、一貫教育の女子校に通っていたという。
兄弟がいるわけではなく、そして両親はアウトドア派だったが、海より山好き。川で遊ぶことはあったが、そこは泳ぐに不向きな場所で、泳いでいる人もいない。友達はインドア派が多く、夏にプールや海に遊びに行くこともなく。
気付けば男子の裸をろくに見ることなく成長し、挙句、この異世界に来てしまった。そして聖女になったことで、増々男子の裸とは縁遠くなったという。
なるほどな、と思う反面。
今時、男子の、しかも上半身の裸で、ここまで初心な反応できるって奇跡だなと思ってしまう。
いや、でもベリルもある意味、男子の裸なんて見慣れていないはずだよな。
まあ、騎士の訓練をのぞきにくれば、上半身裸の奴もいるけど。
今の季節はさすがに寒くて俺は無理だけど、ヴァンパイアは寒さに強いし。
「拓海くん、呆れている?」
「いや、その経歴を聞いたら、仕方ないかなと」
そしてまじまじとノエルを見る。
「だいぶ、見慣れた?」
「そ、そうだね。なんというか、うん。男子の体って、女子とは違うよね……」
冗談で言っているのか、本気で言っているのか悩む。
「まあな。でも見慣れてしまえばどうってことないだろう?」
「……そうだね。拓海くんは弟みたいなものだし。ホント、身長がこれぐらいの時は、拓海くんの背中と脇腹についた痣に湿布貼ったこともあるしね」
ノエルは笑いながら、テーブルの高さよりちょっと上ぐらいの空間に手の平を向ける。
そうか。小学6年生の時でもその程度の身長だったのか。
「小学生の頃は……。ろくに筋肉もついてないし、ガキだよな。でも今は違うだろう?」
「うん。だから驚いてしまったわけで……」
「どうする? もうそろそろ時間だろう? 見慣れたなら、最後にもう一度だけやってみるか?」
ハッとしてノエルは頷き、聖書を開き、聖水の瓶を持つ。
この日、最後の最後でノエルは魔術円に聖水をかけ、聖書を朗読し、あの台詞を言うことに成功した。
だが、魔術円は相変わらずそこに健在だった。
◇
「拓海、今日はどうだった?」
悪魔祓いの対話について、最初は昼食の時に報告していた。
だが次第にやっていることが、聖書を朗読して決め台詞を言うか、聖水をかけて台詞を言うか、など、結局は手を変え品を変え、でもやっていることに差異がないことにみんな気づいた。
もちろんベリルも。
だから昼食の時に、悪魔祓いの対話についてベリルは尋ねなくなった。皆も敢えて聞かない。代わりにベリルは、寝る準備が整い、ベッドに横になると、俺に尋ねるのだ。「今日はどうだった?」と。
俺は包み隠さず、ノエルが男子の裸に慣れていない件について話した。
なぜ男子の裸に慣れていないのか、その理由と、それを克服するために、俺は上半身裸のままノエルと話したことも。
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2話目は8時台に公開します。






