42:会いたい、と思った
ロードクロサイトと面と向かって話すのはこれが初めてだった。
最初は……緊張した。
でも俺の話に熱心に耳を傾けてくれたし、質問も的確で無駄がなかった。
何よりいろいろ褒めてくれた上に励まして、そして俺のことをレッド家の一員だと認めてくれた。
肩を叩かれた時はまるで父親のように感じた。
ロードクロサイトが俺を受け入れてくれたのは……間違いなくベリルのおかげだ。ベリルが俺のことをロードクロサイトに話してくれていたから……。
ベリル……。
騎士叙任式のベリルの姿が頭に浮かんだ。
立襟、長袖の純白のドレス姿のベリルは本当に美しかった。
会いたい、と思った。
今晩もベリルは部屋に、ちょっと話をしに来てくれるだろうか。
「拓海」
……!
振り返ると、アンバーローズ色のネグリジェに、金糸の刺繍が施されたボルドーのガウンを羽織ったベリルが、駆け足で俺の後を追ってきた。
「ベリル」
思わず笑顔になっていた。
「拓海、夕ご飯を食べ損ねただろう?」
「……! そう言えばそうだった」
その瞬間、俺は忘れていた空腹を思い出した。
思い出すと同時に、お腹の虫が鳴いた。
「ダイニングルームへ行こう」
ベリルが俺の手を掴むと歩き出した。
「でもこの時間じゃ何もないんじゃ……」
「今日の晩御飯はシチューだった。鍋にまだ残っているはずだ」
「そうなのか⁉ でもアレンとカレンは……」
「もう今日の仕事を終え、部屋に戻っているだろう」
「二人がいないなら……」
「私が用意する」
「え、ベリルが⁉」
「なんだ、意外か?」
ベリルが俺をチラッと見た。
「いや、そんなことは……。ただ、ベリルはお嬢様だし、料理とか自分でしないだろうと……」
「それは拓海が言う通りだ。私が料理をしては、アレンとカレンの仕事を奪うことになる」
そうか。この家ではそういう発想になるのか。
「だから趣味でたまに料理を作っている」
「そうなのか⁉」
「それほど驚かれるとは……」
ベリルが視線を廊下に敷かれた赤絨毯に落とした。
「いや、悪い意味ではなく。いい意味で驚いている」
「そうか」
顔を上げたベリルの表情は嬉しそうだった。
いつも食事をするダイニングルームに着いた。
「今、用意するから座っていろ」
ベリルはそう言うとキッチンへ向かった。
「ベリル、俺も手伝うよ」
「⁉」
ベリルが驚いた顔で俺を見た。
「もしかして男がキッチンに立つのが意外?」
ベリルは深く頷いた。
「そうか。郷に入っては郷に従え、というもんな」
俺がダイニングルームへ戻ろうとすると、ベリルが俺の袖を掴んだ。
「……二人で準備した方が早い」
ベリルの言葉に俺は満面の笑みを浮かべ、キッチンへ戻った。
◇
シチューを温める間にベリルは、ベビーリーフとレタス、そして林檎を加えたサラダを手早く作ってくれた。その間に俺はパンとミルクを温めた。
用意はあっという間に終わり、シチューをお皿にいれ、パンとサラダとミルクをトレイにのせ、ダイニングルームに運んだ。
俺が食事を始めると、ベリルは少し緊張した面持ちで席についていた。
腹ペコだった俺は、ものすごい勢いで料理を口に運んだ。
ベリルはその様子を黙って見守っていた。
もうすぐで食べ終わるという状態になって初めてベリルが口を開いた。
「……サラダはどうだった、拓海?」
……!
しまった。あまりにもお腹が空いていて、がむしゃらに食べてしまった。
もしサラダが不味かったら、勢いが止まっていたはずだ。
止まらなかったということは、不味くはなかったはずだ。
でも味は……思い出せ、俺。
……。
……!
「林檎のシャキシャキした食感が斬新だった。サラダとして林檎を食べたことがないから、こういう食べ方もあるんだって新しい発見だった。味は……あまりにも勢いよく食べてしまってよく覚えていないんだ。ごめん……」
「そうか。残さず食べたと言うことは、不味くはなかったのだろう」
「それはもちろん!」
ホッとした顔になった後、ベリルは……。
「……もし、拓海がまた食べてもいいと思うなら、今度はもっとちゃんとした料理を用意しよう」
俺から視線を逸らし、少し照れた様子のベリルは可愛らしかった。
「……! ぜひ、食べてみたい」
「分かった」
一気に笑顔になったベリルを見たら、俺も嬉しくなった。
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次回更新タイトルは『新たなる動き』他2話です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼






