42:冷水で顔を洗いなさい
新しい自分の一面を知った俺だったが。
就寝前のベリルは、夕食前から一転、とろけるような甘さに変わっていた。
何が甘いのかと言うと、まず囁きが甘い。
「拓海、お前は私のものだ」
「早く拓海と結ばれたい」
「絶対に、誰にも渡さない」
もう言葉だけで昇天しそうだ。
しかもストロベリー色のベビードールに、ココア色のガウン姿のベリルは、まるでストロベリーチョコのようで……。しかもクッキーのような甘い香りがしている。
それは俺のベリルを食べたい衝動を高めた。
結果、その体を抱きしめ、クッキーのような甘い香りを思いっきり吸い込み、沢山キスをしてしまう。その際、ベリルは俺を溶かすようなあの甘い言葉を囁き……。
まさに腰が砕けそうだ。
さらにベリルも俺に負けないぐらい沢山のキスのお返しをくれて……。
しかも「リマが拓海のキスマークを気にするからな」と言い、服を着てしまえば見えない場所にキスマークをつけてくれた。
そんな優しさにもすっかりやられてしまう。
このまま朝までベリルと甘々な時間を過ごしたかった。
だが明日も早いのだからとベリルに言われ、それでも離れがたく、その体を抱きしめていると……。
「拓海のために用意したものがある」
そう言ったベリルはポリアース聖教会に行った時、手に持っていた紙袋を取り出した。
中身は、壁に飾る十字架のオブジェ。
ポリアース聖教会の敷地にある美術館で購入したという。
「国使館の壁に勝手に飾るわけにはいかない。だから拓海の側のサイドテーブルに置いておこう。この十字架は悪魔避けになるそうだ」
俺のためにベリルは、この十字架のオブジェを……。
ベリルの優しさに、さらに想いが強まった。
朝、部屋にやってきたスピネルは……。
「ちょっと拓海くん、どこ見ているの? 現実に戻ってきて。それに頬が緩み過ぎ。冷水で顔を洗いなさい」
あのスピネルが驚くぐらい、昨晩の余韻を俺は引きずっていた。
だからスピネルが魔術円を確認するため、寝間着の上衣を脱がす一連の動作にも、まったく無反応だった。
スピネルは俺が反応しないので、つまらなさそうな顔をしていたが……。
魔術円を見ると、ため息をついた。
「拓海くん、完全にベリル様に骨抜きにされたわね。このキスマーク。胸に三箇所、脇腹に二箇所。……まさかとは思うけど、一線を越えたりしていないわよね?」
「さあ、どうでしょう」
さすがのスピネルも「双子を連れてくればよかったわ。まったく、拓海くんったら」とブツブツ文句を言っている。
朝食は部屋に届けられ、ベリルと二人、パンケーキを食べさせ合った。そしてポリアース聖教会へ向かうため、エントランスホールへベリルをエスコートして向かうと……。
「拓海、アンタ、朝からデレ過ぎでしょ! これから教会へ向かうのよ(怒)」
リマは顔を真っ赤にして憤慨する。
「拓海、もう少し頬を引き締めてください」
キャノスはやんわり注意し、シナンは……。
「これはこれは拓海様。昨晩は夢のような時間を過ごせたのかな? 男が朝デレているのは、恋人と上手くいっている証と言うしな。よきことだ」
ヴァイオレットは顔を赤くし、俺から視線を逸らしてしまう。
そんなに俺、デレた顔をしているのだろうか……。
「拓海、車に乗るぞ」
「うん。行こう、ベリル」
笑顔でベリルの手を取り、車に乗り込んだ。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『俺がこうなったのはベリルのせい』
『6歳の年の差なんて』
です。
デレデレの拓海。そして悪魔祓いが始まる――。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






