35:ど、どうして……。
ハネス大司祭が癒しの聖女が起こした奇跡について語っているが、頭に入ってこない。
ど、どうして……。
癒しの聖女がなんでノエル!?
確かにノエルの父親は牧師で、自宅の隣は教会だった。
でもだからってなんでノエルが?
そんなに信心深いなんて聞いてないぞ。
チラリとノエルに目をやる。
俺と目があった瞬間、ノエルは大きなブルーグレーの瞳を慌てて逸らす。
その後は、視線を伏せ、明らかに動揺している。
ノエルは確か「ただ、エトロ大聖堂では、毎日のように主へ祈りが捧げられています。その祈りに主が答えたと、大司祭からは言われましたが……」と言っていた。
つまり、エトロ大聖堂では聖女の降臨を毎日のように祈っていた?
その祈りの力が、ノエルを聖女として降臨させた、ということなのか!?
ノエルが聖女……?
癒しの聖女が起こした奇跡としてシナンは確か「魔法を使えるという話は聞いていない。なんでも聖水薬なるものと、怪我につける万能膏なるものを使って怪我を癒したらしい。それはブラッド国やウルフ王国にも伝わったと聞いている」と言っていた。
それってもしかして……。
聖水薬=消毒薬、万能膏=絆創膏のことでは……。
この異世界に転生した時、多分この二つを持っていたのだ、ノエルは。
それにシナンが「人々の悩みに耳を傾け、適切な助言を与え、多くの人を救った。その結果、3年前に、グレゴウス教皇から正式に『癒しの聖女』の称号を与えられそうだ」と言っていたが、確かにノエルは俺の喧嘩の理由を聞くと、よくアドバイスをくれた。それは子供心ながら「なるほど」と思えるものだった。まあ、まだガキで素直には従わなかったけど。
でも思うに、ノエルは別に聖女というわけではなく、ただ普通にいつも通りにやっていたら、聖女になってしまっただけなのでは……。
つまり、悪魔祓いなんて、無理では!?
というか、俺達が癒しの聖女がノエルだって知らないのは仕方ないと思う。
だってグレゴウス教皇もハネス大司祭も、ノエルの詳細をあの場で語らなかったからだ。
だがノエルは俺達の情報を事前に聞いていないのか?
俺の名前とか。聞かなかったのか?
「……ということです。それでは癒しの聖女、今回の悪魔祓いの対象となる拓海・吉沢を紹介します」
ハネス大司祭が俺を見て「どうぞ、こちらへ」と、祭壇へ来るよう、促す。
俺が歩き出すと、ハネス大司祭が言葉を続ける。
「癒しの聖女の情報を事前に皆さまにお聞かせしなかったのは、拓海様の中にいるモールが、癒しの聖女が誰であるか分かると、攻撃をしかける可能性があったからです。ですから詳しい情報を開示しませんでした。そして癒しの聖女もまた、事前に拓海様の情報を知ると、聖女としての力が、拓海様に向かってしまう可能性があります。モールが癒しの聖女の力を察知し、これまた攻撃の危険につながる。ゆえに双方、今、この主の力が満ちる教会で初めて、たがいの情報を知ることになります。これよりしばらくの時間は、拓海様と癒しの聖女の二人で対話を行っていただきます。教会の周囲で護衛についていただくのは構いません。ただ、魔術の行使はお控えください。魔術、すなわち魔力の源は闇の力。それはモールにつながる力でもあるからです」
ハネス大司祭の言葉が終わる丁度そのタイミングで、俺は大司祭の隣に立った。
「癒しの聖女、どうか拓海様に祝福を」
そう言うとハネス大司祭が、一歩後ろに下がりながら俺に小声で告げる。
「癒しの聖女の前で、軽く頭を下げ、手を組んでください」
俺は頷き、すぐさま手を組み、軽く頭を下げる。
ノエルが首から下げるネックレスについた十字架が見える。
祈りの言葉を呟きながら、ノエルが俺の頭上で十字架を切っているようだ。
「終わりました」
ノエルの言葉に顔をあげる。
「それでは皆様退出を」
視線をベリル達の方へ向ける。
ベリルは何か言いたげたが、この粛々と進む儀式の流れを止めることを躊躇っているのか、口をつぐみ、通路へと向かう。シナンは俺の顔を見て、ニヤリと笑った。キャノスは戸惑いの表情で俺を見る。ヴァイオレットとリマに表情の変化は特にない。スピネルは……なぜだかニヤニヤしている。
な、なんで、スピエル、その笑みの意味は!?
スピネルの後ろにハネス大司祭が続き、その後ろを聖騎士が追い、そしてノエルと俺を残し、皆、教会から出て行った。
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本日もゆるりとお楽しみください。
2話目は8時台に公開します。
【ちょこっと別件】
実は下記作品のEpisode3に
蕗野冬先生の挿絵&コメントが登場しました。
『悪役令嬢完璧回避プランのはずが
色々設定が違ってきています』
https://ncode.syosetu.com/n6044ia/
もしお時間ありましたら
どこに先生の挿絵&コメントがあるか
宝探しいただけると楽しい(?)かもしれません~






