33:私のことを思い出していたのか?
集合場所の碧い教会には、10分前にちゃんと到着できた。
「拓海、なんだか嬉しそうだな。食堂の昼食がそんなに美味しかったか?」
そう俺に尋ねるベリルは、何やら大切そうに小さな紙袋を持って、ご機嫌な様子だ。
「食堂の食事は美味しかったよ。用意されていたのはホワイトシチューで、具材もオーソドックスなもの。でもまろやかだけどコクもあり、黒糖のパンともよく味があっていた」
さっき満腹になったばかりなのに、思い出すとまた食べたくなってしまう。
「なるほど。男性の食堂はシチューだったのか。女性の食堂ではシチューポットパイが提供された。中のシチューはビーフシチューだ。パイはサクサクでとても美味しかった。ソースも濃厚でビーフもとろけるような柔らかさ。それにデザート代わりでついていた林檎のコンポートは絶品だ。あれで林檎パイを作りたいと思った」
「そうなのか……。ベリル、林檎パイも作れるのか?」
「そうだな。アレンとカレンは、お菓子作りは専門外だからな。食後に出るスイーツは街のパティスリーから取り寄せることが多い。だから私がお菓子を作っても、二人の仕事を奪わずに済む」
なるほど。
ベリルが作るお菓子……。
ブラッド国にはバレンタインがないから、ベリルから手作りチョコをもらうこともなかった。何かベリルにお菓子を作ってもらう口実はないのだろうか。
あ、そうか!
「なあ、ベリル、俺の誕生日の時に、ケーキ作って欲しいな……」
ちょっと照れくさくて、語尾は小さな声になってしまう。
ヴァンパイアは聴力が優れているから、どうせ聞こえてしまうと分かっているのに。
「もちろんだ。そのつもりでいた。どんなケーキを食べたいかリクエストしてくれれば、最高級の食材を揃えよう」
ベリルが作るケーキ、とんでもなく高級なものになりそうだ。
でもまあ、ケーキならショートケーキかな。
それでそのショートケーキを、あの別荘で食べたホットアップルパイの時のように、ベリルと食べさせ合って……。
あの時。
林檎の果汁が、ベリルのチェリーレッド色の唇から、一滴だけこぼれ落ちて……。
俺はすぐさまベリルの腕を掴み、顔を近づけ、その滴を自分の唇で受け止めた。少し顔を離すと、ベリルの唇はほんの数ミリ近づけば届く距離にあって……。
キスをしたい衝動に駆られていたな……。
「拓海」
「!!」
「また遠い目をしていたな。だが、頬がそれほど緩むということは、何か私のことを思い出していたのか?」
ベリルは鋭い。
というか、そんなに頬が緩んでいたか。
「皆さま、お待たせいたしました。外でお待ちいただかず、中に入っていいただいて良かったのですよ。寒くはありませんか? さあ、入ってください」
ハネス大司祭が駆け寄り、碧い教会の扉を開け、中へ入るよう促してくれた。
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2話目は8時台に公開します。






