4:起きないと鼻からスープを流し込みますよ
「はーい、拓海様、起きてください」
「起きないと鼻からスープを流し込みますよ」
聞き捨てならない一言に俺は目を覚ました。
「あ、目覚めた!」
「目覚めましたね」
左右から俺を覗き込む小学生ぐらいの双子と目があった。
二人とも小動物を思わせる、黒いくりっとした瞳をしていた。
なんだ、二人のシルバーの髪から伸びている獣の耳は。
!
双子は揃いの服を着ていた。
フリルのついた黒色のシャツにピーコックグリーンのジレ、ジレと同色のキュロット、黒いタイツにフラットシューズ、そしてその背後で左右に揺れているものがあった。
――尻尾だ。
俺はゆっくり上体を起こした。
床からかなり高さのある天蓋付きのベッドに寝かされていた。
右手の壁には一面に窓があり、明るい日差しが降り注いでいる。
あ、なんかいい香りがする。
左手のサイドテーブルを見ると、スープ、パン、果物を乗せたトレイが置かれていた。
「お腹すきましたか? 空いていたらどうぞ遠慮なく召し上がってください」
左側に立つ少年がトレイを俺に差し出した。
「えっと……ここはどこで、俺はなんで死んでないんだ? いや、死んだのか?」
トレイを受け取りながら尋ねると、少年はクスクスと笑った。
「では食べながら説明しましょうか」
「……頼む」
俺はトレイを膝の上に置いた。
「まず拓海様は生きていらっしゃいます。ブルーノ家……つまりベリルお嬢様の婚約者の家から、ベリルお嬢様と第一騎士のヴァイオレット様と帰館されました」
「血を全部吸われたわけじゃないんだ……」
俺はグラスの水を一口飲んだ。
「ベリルお嬢様によると、拓海様の血は特殊なんだそうです。少ない量で、失った血の補給ができたとのことです」
「……そう言えばそんなことを言っていた気がする」
「ベリルお嬢様に吸血されたのに、その時のことを覚えているんですか?」
「うん。ものすごい気持ち良さに襲われていたけど、目の前のベリルとヴァイオレットが会話しているのは分かっていた」
「へえー、すごい。血が特殊な上に、魔力も効きにくいということですね」
「よく分からないけど」
俺はスープをスプーンですくい口に運んだ。
ほっとする優しい味わいだった。
「もう一つの質問、ここはどこか、に答えると、ここはベリルお嬢様が暮らすお屋敷です。つまりレッド家の邸宅の客間です」
「なるほど。で、君たち二人は何者なんだ?」
「ぼくとカレンはベリルお嬢様付きの召使いです」
「あ、君の名前は?」
「ぼくはアレンです。で、あっちがカレン」
右側にいるのがカレンで俺が話しているのがアレンか。
区別は……まったくつかないな。
「もしかして区別がつきません?」
ちぎったパンを口にいれ、俺は頷いた。
「えっと、ぼく、アレンには耳の内側にほくろがあります」
髪からひょっこり顔をのぞかせている獣耳を見ると……確かにほくろがあった。
右側に立つカレンの耳にほくろは……なかった。
「その耳って本物だよな?」
「と、申しますと?」
「俺がいる世界にはそういう耳を持つ人間は存在しないんだ」
「ああ、なるほど。そういうことですか。ぼくとカレンはライカンスロープなんです。だからこの耳と尻尾は狼と同じものです」
ヴァンパイアにライカンスロープ……ここはどんな世界なんだ……?
俺の疑問を察知したのか、アレンがこの世界について説明を始めてくれた。
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ちなみにライカンスロープは獣人のことで
今回のアレンとカレンは狼人間という設定です。