13:聡明なベリルとは思えないのですが!!
「しかし、通常は召喚と同時に、魔術で召喚したものをコントロールする必要があり、かつ召喚したものが現出している限り、魔力をじわじわと持っていかれる。だが拓海には魔力がない。もし今もいるというなら、どういう状態なのだろうか」
ヴァイオレットが独り言とも思える疑問を口にすると……。
「モールは拓海に召喚され、手を貸した。出現時は、例えばモール自身が持っていた魔力でなんとかなっていた。だが魔術を使い、自分の所有していた魔力はそれなりに使った。本来であれば、召喚者から魔力をじわじわ吸い上げながら、現出し続けるが、拓海には魔力がない。だからモールは活動停止し、極力魔力を使わずに、沈黙している。拓海が帰還魔術を使うのを待っている、と考えるのはどうだ?」
「さすがですな、ベリル様。その考えが妥当に思える。となると、帰還魔術を使えば、モールは帰還し、その胸の魔術円も消えると」
だがベリルはそこで腕を組んで考え込む。
「魔術円は赤いアベンチュリンによって現れたと思う。そしてその赤いアベンチュリンには、なんらかの方法で魔力が込められていた。だから現れた魔術円自体が魔力を帯びている状態だったのだろう。だからモールが召喚された、のだと思う。でも今、魔術円に魔力は微塵も感じられない。そして帰還魔術は召喚者によって成される必要がある。その帰還魔術を使うには、魔力が必要になる。だが拓海には魔力がない」
これにはさすがのシナンも次の言葉が出ない。
代わりに俺がベリルに聞いてみることにした。
「なあ、ベリル。魔獣や霊獣を召喚しているヴァンパイアが死んだら、召喚されていた魔獣や霊獣はどうなる?」
「戦では多々ある出来事だ。その場合、召喚されていた魔獣や霊獣はコントロールを失い、敵味方関係なく暴れることになり、非常に厄介だ。そうなると討伐することになる。もしくは魔獣や霊獣の魔力切れを待つことになる。戦時下では魔力切れを待ったら双方の軍が全滅しかねない。だからまず討伐されるだろう」
「ということは、このままモールを放置しても、いずれ魔力切れになり、消えるということか。モールが消えたら拓海様の魔術円は?」
シナンがベリルを見る。
「魔術円自体も魔力で出現させているものだ。その魔力がないのに残っていること自体が不可思議だ。モールが消えようが消えまいが、そこに残るように思える」
ベリルはため息をつく。
「なるほど。魔術円は体に残るが、魔力はもうない。となると何も悪さをすることはない、と」
シナンの言葉にベリルは頷く。
「ベリル様は、拓海様の体に魔術円があると、気になるか?」
「気にならないと言えば嘘になる。その実体が完全に判明したわけではないからな。拓海の身に何か起きないかと不安だ」
ベリルの真摯な表情に、思わず乙女のようにキュンとしてしまう。
シナンはフッと笑みを浮かべベリルを見る。
「そのような心配以外は問題ないのですな。拓海様を愛する上で」
「当たり前だ。それに……」
ベリルはハッとした顔になる。
「そうか。拓海がヴァンパイアになれば、魔力を使えるようになる。帰還魔術も使える」
「べ、ベリル様、だからといって早急に婚儀を挙げるとか言い出さないでください」
ヴァイオレットが慌てた顔でベリルを見る。
「婚姻関係にある純血種の血を、人間が吸血するとヴァンパイアになれる。これ、俗説ではなく本当の話なのか」
「シ、シナン、そのようなヴァンパイアに関する秘儀を容易に口にするのではない」
ヴァイオレットが今度はシナンを牽制する。
「拓海、父上に話し、婚儀を」
「いや、ベリル落ち着こう。よく分からない魔術円のために、みんなに迷惑をかけられない。命に係わるとかの緊急事態なら、それもやむを得ないかもしれない。でも、魔術円はただここにあるだけで、悪さをしているわけではないのだから……」
「……拓海は私と婚儀を挙げたくないのか?」
ベリルのルビー色の瞳が曇る。
ど、どうして、ベリル!?
聡明なベリルとは思えないのですが!!
「そんなわけはない。俺は一分一秒でも早く、ベリルと婚儀を挙げたいと思っているよ」
「拓海……」
「拓海まで何を言い出す! 今、レッド家ではカーネリアン様とバーミリオンの婚儀の準備が進められているのだぞ」
「でもヴァイオレット、愛し合う二人の想いを止めることはできないのでは?」
「シナンは黙ってくれ」
「いや、ヴァイオレット、シナンの言う通りだ。兄上には申し訳ないが、一足先に」
なんだかカオスになってきたその時。
ドアがノックされた。
「この立て込んでいる時に。誰だ?」
ベリルが応じるとドアがゆっくり開く。
「……父上?」
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2話目は8時台に公開します。






