37:気を抜いたな、ベリル嬢
走りながら、キャノスは自身の手の平に碧い石を置くと、息を吹きかけた。
美しい碧い鳥が二羽現れた。
「マルコ、館へ。シモネ、バーミリオンの所へ。10名の鮮血の暗殺者の襲撃を受けていると伝えて」
鳥はすぐさま天高く舞い上がったが、その体は透明になって見えなくなった。
「おや、魔法使いがいたのですか?」
前方に先ほどの少女と同じように、ニカブを纏った少女が現れた。
先程の少女のニカブはグリーンだったが、この少女は濃紺のニカブを纏っていた。
二重の黒い瞳を輝かせると、迷うことなく矢を放った。
「Flames, burn them all.(火炎よ、焼き尽くせ!)」
ベリルの火炎が、放たれた矢を一瞬で燃やした。
間髪をいれず、ベリルは叫んだ。
「Attacking with firestorm.(火災旋風)」
炎を含んだ竜巻が起き、少女は慌ててジャンプすると、木々をつたい、後退した。
後退したが撤退する気はないようで、竜巻を避け、こちらへ再び近づこうとしていた。
「あれは魔術が効かない体質ではないので、私が相手をします。拓海、ベリル様を連れて逃げてください」
キャノスは俺の手に小さな船のミニチュアを渡した。
「水に浮かべれば人が乗れるサイズになります。いわゆる魔法アイテムです。これで川を下ってください」
「分かった!」
俺はベリルを連れ、道を下り、川沿いに出た。
追っ手の姿は見えない。
キャノスから預かったミニチュアの船を川に浮かべると、あっという間に立派な帆船に変わった。
ベリルの手をとり帆船に乗り込むと、船は何もしていないのに動き出した。
やっぱり魔法は便利だ。
このまま川を下り、バーミリオン達がいるところまで戻れれば、馬に乗り、森から出ることができる。
そう思った時だった。
進行方向の左岸から五人、まるで砂漠の民のように、頭にはターバン、口元を布で覆った男性達が現れた。
手には銃を構えている。
「大丈夫だ」
ベリルの足元には召喚のための円陣が出現していた。
そして。
船の上空には……。
実物を初めて見た。
不死鳥だ。
俺が敵の存在に目を奪われている間に、ベリルは不死鳥を召喚していた。
不死鳥が左岸に向かうと、男達は驚き、すぐさま逃げ出した。
このまま不死鳥に守られ、移動できれば……。
「拓海、伏せろ!」
⁉
瞬発力と運動神経の良さに助けられた。
俺は言われた通り、伏せることができた。
さっきまで俺がいた場所を炎が駆け抜けた。
「魔術が効かない体質なのか⁉」
ベリルが苦々し気に怒鳴った。
俺は首を動かし、後ろを見た。
屈強な体躯の男がそこにいた。
その姿はまるで『千夜一夜物語』に出てくる魔人のようだった。
衣装もそれっぽいし、腕輪もつけているし、絶対に魔人を意識している!と思えた。そしてその魔人のそばには、ローブに杖を持った老人、こちらは見るからに魔法使いがいた。
「なぜ魔法使いが、魔術が効かない体質とつるんでいるのだ⁉」
ベリルが驚愕の表情を浮かべた。
俺は別に違和感を覚えなかったが、この世界では相当ありえない組み合わせのようだった。
ベリルの問いかけに魔法使いの老人が、手にしていた杖を掲げて答えた。
「気を抜いたな、ベリル嬢。魔力封印」
それは一瞬のことだった。
起き上がろうと俺が両手を甲板についたその時。
ベリルが床に倒れた。
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