80:魔法使いって、ロマンチストが多い?
翌日の午前中、俺達はスティラとシナンと共に、再び国境を訪れた。
かなりの広範囲で確認したが、赤いアベンチュリンはもちろん、目につくようなものは何も落ちていなかった。
「古い書物で見つけたわずか数行の記述でしたが、こんな習わしがあったそうです。死者の棺には三つの物を収める必要がありました。すべて一つずつで、少なくても、多くても、死者はデスヘルドルに行くことができないと言われています。その三つというのが、デスヘルドル入国時に必要な渡し賃、死者となった故人の心の拠り所になるような物、蕾の状態の花束。棺はすぐには埋葬されず、墓守が棺に納められた花束の開花を確認し、土の中へ埋めるようにしていたそうです。花が咲けば、旅立ちに向けた準備ができたという故人からの合図と考えていたとか」
スティラはそう話し出すと、こう続けた。
「死者の心の拠り所となる物として埋葬された物は、様々と言われています。故人が読者好きであれば、本が一冊納められた。お酒好きであればワインが一本納められた。そんな感じです。もしかすると拓海様が国境付近で見つけた赤いアベンチュリンは、そう言った副葬品の一つだったのかもしれません。かつてこの地にいた魔族の棺に入れられていた」
「死者にとって心の拠り所になるような物――それは死者にとってとても大切なのではないか? それを手放すようなことがあるのだろうか?」
ベリルの疑問にスティラは「そうですね」と言いつつ、こんな考えを聞かせた。
「通常であれば手放すことはないと思います。その赤いアベンチュリンがいつからそこにあったのか、それは分かりません。何せ私は毎日のように国境付近に通っていますが、地面なんてじっくり見ていませんので……。もしかするとあの場に、死者にとって思い出深い相手がずっと昔に現れたのかもしれません。でも普通、死者の姿は見えません。でもどうしても気づいて欲しくて、赤いアベンチュリンを投げた。死者はソルトの川を渡れません。でも赤いアベンチュリンは元々こちらの側にあったもの。赤いアベンチュリンだけが、こちら側に転がりこんだ……」
スティラの考えに共鳴したのはキャノスだ。
「赤いアベンチュリンの持ち主は女性の魔族で、ソルト川を挟み現れたのは、彼女が愛した魔族の男性。男性は女性を懐かしみ、この地を訪れた。でも死者の姿は見えない。女性は懸命に彼に贈られた赤いアベンチュリンを投げたが、男性は気づかずに去ってしまった。なんだか切ないですね……」
すべてキャノスの想像なのだが……。
スティラはうっとり「そうですね」と微笑んでいる。
魔法使いって、ロマンチストが多いのだろうか?
「つまりはデスヘルドル側から投げられたものが、この辺りに転がっていてもおかしくない、ということだな」
リアリストのベリルに、スティラは我に返り「はい、そうです」と頷く。
「そうなると拓海は、偶然赤いアベンチュリンを拾ってしまった可能性もあると……。拓海が狙われたわけではない、そう思える要素があって安心した」
ベリル……!
自分自身、偶然拾ったものと思っていたし、あの時現れたモールは俺を手助けしてくれた。だから自分が狙われているかも、なんて発想はしていない。でもベリルはあらゆる可能性を考え対処する習慣が身についている。その可能性の一つに俺が狙われているかもしれないと考え、心配していたのか……。
心配かけて申し訳ないと思いつつも、俺ってベリルに愛されているな、と嬉しくなっていた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『実はまんざらではなかった』
『シナン、まさか、君は……』
です。
なんだか驚き情報が飛び込んできそうな?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






