35:優しい主(あるじ)
昼食の席に俺は夢見心地な状態で参加していた。
ベリルの正式な騎士になれたことがこんなに嬉しいとは思わなかった。
既にベリルは普段着のドレスに着替えていた。俺も甲冑を脱ぎ、いつもの高校の制服姿だったが、まだ熱は冷めていなかった。ふわふわした気持ちでスープを口に運び、パンを咀嚼した。
昼食の後、ベリルは父親のロードクロサイトの執務を手伝い、俺は午後の訓練に向かうため、廊下を歩いていた。
「新米騎士さん、騎士になった気持ちはいかがですか?」
声をかけてきたのはバーミリオンだった。
「まだ信じられない気持ちでいっぱいだよ。ベリルのために頑張らないとだな」
「ハハハ。なんだか騎士になったというより、ベリル様の夫になったみたいだな」
バーミリオンは快活に笑いながら、とんでもない言葉を放った。
「変なこと言わないでくれよ。ベリルは生粋の純血種なんだろう。俺と結婚なんてあり得ないし」
「だから言っているんだろう。そうじゃなきゃ冗談にならない」
「あ、そうか」
俺は自分が全力で否定したことが恥ずかしくなり、思わず頭をかいた。
「しかし今日のベリル様は本当に美しかったかな。ヴァイオレットの任命式の時の深紅のドレスも印象的だったが、白のドレス姿は初めて見た」
バーミリオンは記憶を探るように目を細めた。
「騎士叙任式で白のドレスを着るのは初めてなのか?」
「うん。ボクが知る限り、ベリル様は一度も白のドレスを着たことがない」
「そうなのか……?」
「レッド家はその名の通り、赤がファミリーカラーだ。だから基本的に赤系統の衣装を好んで着用する。もちろん赤以外を着てはいけないという縛りはないから、他の色も着るが、圧倒的に赤系統の割合が多い。赤に対して白は対極にあるような色。よってボク達でさえ、ほとんど着ることがない」
「どうして白だったんだろう……?」
「拓海がいつも白いシャツを好んで着ているからじゃないか?」
「!」
別に白いシャツが好きなわけではなく、高校の制服のシャツといえば大概が白なだけであって……。まさか白という色が好きと思われていたとは……。
でも、俺が白を好きだろうと思い、白いドレスを選んでくれたなら……。
それはそれで嬉しかった。
優しい主と思えた。






