57:嫌な予感に、背中に汗が伝う
街の方へなぜ歩いていたのか。
その理由はすぐ分かった。
シナンが運転する車がやってきたのだ。
「この車、どうしたんだ!?」
驚いて尋ねると、シナンはしれっと答える。
「うん。ちょっと綺麗なマダムを褒めたら、貸してくれた」
顔を見た瞬間から、何やら男の色気、フェロモンを感じた。
シナンは女性の標的専門の暗殺者。
それって、女性のハートを落とすのも長けているってことなのだろうな。
無言のままシナンは、ドキッとするような笑顔を見せ、後部座席を親指で示す。
「とりあえず、車に乗れよ、二人とも」
シナンに言われ、俺は助手席に、キャノスは後部座席に乗り込んだ。車はさっきの門番がいた方向には向かわず、右手の道を進む。キャノスは手短にさっき俺に話したことを、シナンに聞かせた。
「なるほど。『アマゾネス』の奴ら、よくまあ、俺達『ザイド』がいるブラッド国に乗り込んできたものだ。……それが『アマゾネス』でもあるわけだが。しかし、もう一組雇っているとなると、依頼主は相当な金を積んでいるな。狙いはやはりベリル様か」
「そうですね。ただ、次期当主はカーネリアン様です。なぜベリル様を狙うのか……」
キャノスの呟きに、シナンはおどけたように笑う。
「おいおい、キャノス。お前さん、平和ボケか? ベリル様はレッド家の頭脳だろう? 当主補佐なんて肩書きまで作ってレッド家に留めている。ベリル様を狙えばレッド家を弱体化できる」
「……そうでしたね」
「で、この屋敷はどうなっている?」
シナンの問いに、俯いたキャノスが顔をあげる。
「さっきマルコに確認させたところ、裏口の方にも門番が二人いるようです。この道沿いは誰もいませんが、魔術が使われています。おそらく塀を無理によじ登れば、阻まれるでしょうし、気づかれるでしょう」
「となると、裏口の門番が『アマゾネス』の奴らか確認するか。まあ、もしそこも『アマゾネス』だったら、本体ごとベリル様の暗殺を請け負った可能性も出てくるな」
「シナン、本体ごとって!?」
嫌な予感に、背中に汗が伝う。
「『アマゾネス』はそこまでデカい暗殺組織ではない。構成員は二十人。もし裏門も『アマゾネス』の暗殺者で固めているとなると、門番だけで四人だ。で、ベリル様のところにいる『アマゾネス』が一人なわけがない。となると五人一組で動く『アマゾネス』が、最低でも二組動いていることになる。……キャノスに聞いた話から推測すると、おそらく当主と息子が人質に取られているだろうな。そして脅されたブリタ夫人は、魔法薬入りの料理を提供した可能性が高い。となると、当主と息子を見張る人員も必要となる。それにこの屋敷には相応の数の騎士がいるはずだ。それを制圧したとなると、『アマゾネス』本体、俺が始末した五人を除く、十五人がかりで仕掛けた、と判断したわけだ」
さっき、キャノスはシナンが一流と言っていたが、本当だ……。瞬時にこれだけの分析ができるとは……。
なんだかちゃらいイメージがあるが、ゼテクがスティラの護衛に選んだだけある。
「さてと。裏門が見えてきたな。キャノス、もし門番が『アマゾネス』だったら俺に考えがある。任せてもらえるか?」
「もちろん」
シナンは裏門の前で車を止めた。
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2話目は8時台に公開します。






