52:つまり、いよいよ、その時が来た
金色の鍵を手にシナンは説明を始めた。
「拓海様、スティラは基本的に毎日のようにあの国境に向かい、死者との対話を行っている。幽閉施設には、毎日のように犯罪者が送られてくるわけではない。だから俺はかなり自由に動くことが許されている。そこで昨晩、ここに来たのさ」
驚くキャノスと俺に、シナンは話を続ける。
「この鍵が、二階の秘密の花園に入るために必要な、入館証みたいなものだ。秘密の花園は本来貴族のご子息が訪れる場所。だがな、俺はスティラの護衛に就くにあたり、レッド家の正式な騎士に任命された。あまりにも急なことで、騎士叙任式はすっ飛ばされてしまったが。でもロードクロサイト様からの、直筆の任命書もゼテクから受け取っていた。それを見せたらここにも入館できた。まあ、ダメ元で尋ねてみたわけだが。やはり『レッド家』の名が顔をきかせた形だ」
なるほど。そこはもうレッド家の信頼度の高さが功を奏したのだろう。
「通常の手続きであれば、さっきの宝飾品店の店主、エストレーリアに秘密の花園のことを匂わせる。つまりは『今年もそろそろ薔薇が見頃の季節になりましたね』みたいな会話をするわけだ。そこで秘密の花園を利用したいという意志をエストレーリアが確認すると、身分証の提示を求められる。で、身分を確認し、問題なければこの鍵をゲットだ。あとはこの鍵を持って二階へ向かえば、秘密の花園に入れる」
「なるほど」と頷いたキャノスはシナンに尋ねる。
「ということは、エストレーリアには、拓海様が秘密の花園を利用するとバレているわけですね」
「まあ、そうなってしまったが。エストレーリアとは昨日、一時間ほど会話した。奴は裏切らない。この仕事も長いし、それだけ長く続けられると言うことは、口が堅いということ。それにどうやら客の秘密を口にしようとすると、意識を失うような魔法をかけてもらっているようだ。ハッキリとは言わなかったが、そうであることを匂わせた。だから拓海様が利用したとはバレないよ。大丈夫」
キャノスは首を傾げる。
「魔法……? サイレントヴィレッジに住む魔法使いは……」
「それより早く行こう。他の客と顔を合わせたくないだろう?」
それは確かにそうだ。
シナンに促され、階段をのぼる。
階段をのぼりきると、そこはいきなりドアになっていた。
ドアなのだが、ドアノブはなく、代わりに郵便受けのような小さな小窓がある。そこにシナンが金色の鍵をいれると。コトリと音がして、ドアが内側から開けられた。
ドアを開けたのは黒服の男性ヴァンパイアで、仮面舞踏会でつけるようなアイマスクをつけている。
中に入るように促され、シナンとその黒服のヴァンパイアは会話を始めた。
どうやら話がついたようだ。
つまり、いよいよ、その時が来た。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『途端に緊張してくる』
『早速始めますか?』
です。
ドキドキドキ……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






