48:愛らしい寝顔
翌朝の目覚めは、とても幸福なものだった。
相変わらずベリルは寝相がいい。
俺とベリルの間にはラインが引かれていて、そこから先は侵入できない、というルールでもあって、それをベリルは律儀に守っているかのように眠っている。だから目覚めた時に、お互い抱き合っている……なんてことはない。
それでも。
隣でただベリルが寝ている。
その愛らしい寝顔を見ることができた。
それだけで十分に幸せだった。
何より、無防備に眠るベリルの額にこっそりキスをする。
これが何より幸せな気持ちをもたらしてくれるのだ。
サラサラのワイン色の前髪を静かに持ち上げ、額に唇を押し当てる。
ああ。
ベリルにキスできた。
そんな幸福な目覚めだった。
◇
朝食の後は、昨日同様、全員変身魔法で姿を変え、マルシェへと向かう。
今日は用事がないので、アレンとカレンも一緒だ。
双子のライカンスロープは、揃いのエバーグリーンのコートを着て、ブラウンのハンチング帽をかぶっている。特に変装はしていないが、ブラッド国にはライカンスロープが多い。それにベリルの召使いの情報までさすがに公表されていないので、バレることはないだろうと、そのままマルシェに向かう。
マルシェでは、様々な物が売られていた。
新鮮な野菜と果物、湖でとれた魚介類、肉類や卵。
ジャムや蜂蜜、様々なスパイスや調味料。
食べ歩きできるようなスナックフードや菓子類。
銀食器や家具、衣類や帽子、絵画や本、なんでもありだ。
もちろん、サイレントヴィレッジを代表するアベンチュリンの原石や宝飾品も売っていた。
巨大なマルシェを見て回るとあっという間に時間が経ち、そしてマルシェを抜けると、丁度サイレントヴィレッジの中心部に到着する。そう、巨大な噴水がある円形広場だ。
噴水に飾られているエメラルドグリーンの鉱石は、ペリドットの原石だという。
30分に一回行われる噴水ショーを楽しみながら、マルシェで購入したサンドイッチを食べ、宿に戻った。
その後は、予定通り、部屋で警護の任務を担いつつ、キャノスと俺、ヴァイオレットとリマと交代でジムへ向かい、トレーニングをした。
そしていよいよオックス家へ向かうということで、着替えることになった。
「キャノス、今日は晩餐会ではないよな? 隊服でいいのかな?」
「そうですね。私的な夕食会ですから、隊服で問題ないかと」
キャノスと二人、着替えを始める。
赤いシャツを着て、黒のネクタイをつけた。そしてジレを着て、赤いズボンを履く。あとは黒革のロングブーツ、そして袖や裾に金糸の刺繍が施された黒のフロックコートを着て、紋章のついた黒のロングコートを着れば完了だ。
いつも通りツヴィークも装備し、キャノスと共にリビングルームへ向かう。
ヴァイオレットとリマも、俺と同様の隊服姿だ。
そこにベリルがアレンとカレンを従えやってきた。
私的な夕食会だから、最大限のオシャレをしているわけではない。それでも、今のドレス姿のベリルは、宝石のように輝いている。
なんて、美しいのだろう……。
ドレスの色はアザレアピンク。胸元と袖にはピンクホワイトの絹のレースが飾られている。クラレット色のリボンが袖に、裾には同色のフリル。首元を飾るのは、薔薇の形にあしらわれた、ベリルの瞳と同じルビーの宝石がついたチョーカー。
髪は左右の髪を少し残しアップにされ、ドレスと同色の宝石のついた髪飾りでまとめられている。さらにパール感のあるピンクのアイシャドウ、淡いピンク色のチーク、チェリーレッド色のベリルの唇を生かした透明感のあるグロスと、メイクにより大人っぽさも際立っている。
とにかくその姿に見惚れ、心臓が高鳴ってしまう。
「拓海、ベリル様に呼ばれていますよ。エスコートを」
あまりの美しさに見惚れてしまい、キャノスに耳打ちされる始末。
慌てて駆け寄ると、ベリルはクスリと微笑む。
「拓海、そんなにこのドレス姿が気に入ったか?」
差し出されたベリルの手を受け止め、力強く頷く。
「とても。つい見惚れてベリルの声を聞き逃してしまった。ごめん」
「そんな理由で聞き逃したのを、咎めることなどできるわけがない」
そう言って楽しそうに笑うベリルをエスコートし、馬車へ向かった。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『オックス家のスペアリブ料理』
『チャンス到来!?』
です。
もぐもぐタイム~
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






