33:私がそうしたいと思ってやったことだ
椅子に腰かけ、改めてベリルと向き合い、その綺麗なドレス姿に見惚れた。
首元にはピンクダイヤのネックレスが輝き、白い肌によく映えている。
ベリルを見るにつけ、自分がこんな寝間着姿でいいのかとソワソワした。
「拓海、私が勝手に自分の気分でドレスに着替えただけだ。気にしなくていい」
落ち着かない俺を気遣い、ベリルから声をかけてくれた。
こういう気遣いができるのもベリルらしかった。
「明日の騎士叙任式がどんなものか、気にならないか?」
「気になる。予行練習もせず、うまくやれるか心配だ」
「拓海は異世界から来た。なおのこと心配だろう。これから説明する」
ベリルによると、レッド家での騎士叙任式とはこんな感じで行われるという。
レッド家の騎士になるとはいえ、ベリル付きになるので、直接の主はベリルになる。だから俺はまず剣を鞘から抜き、そして剣をベリルに渡す。その後、俺はひざまずく。
そこでベリルは俺を騎士に任命する旨を伝え、その証となる誓約の言葉を口にする。俺はその誓約の言葉を復唱し、ベリルが差し出した剣に口づけを行う。ベリルは俺の肩に剣の刃を右、左の順におき、それで式は完了となる。
これで俺は正式なベリルの騎士となるのだ。
俺がゲームで見た騎士叙任式とはだいぶ手順が違うが、そもそもブラッド国には教会は存在していなし、この国独特のやり方なのだろう。
「なあ、ベリル、俺の肩書きには『見習い』がつくのに、いきなり騎士の任命でいいのか? 何かステップを踏まなくてもいいのかな?」
俺が遊んでいたゲームでは、親元を離れ、城で作法を身に着け、その後、従騎士になり、やがて騎士に出世するという流れだった。さらにバーミリオンが見習いとしてレッド家に入った話を聞いていたので、このステップはきっとこの世界でも存在するだろうと思い、尋ねてみたのだ。
「本来は拓海の言う通りだ。だから今回は異例だな」
「それでいいのか?」
「拓海は既に私のそばに常にある。決闘の場では私を庇うまでの活躍を見せた。だからもう騎士でいいのではないかと、父上を説得した」
「そうなのか!」
「まあ、それでも父は伝統を重んじるから、肩書きに『見習い』をいれることが妥協点となった。それも半年もたたずで外されるだろう」
「分かった。……ベリル、俺のためにロードクロサイトを説得してくれて、ありがとう」
「私がそうしたいと思ってやったことだ。気にするな」
……!
ベリル、なんて男前なんだ。
こんなに美しく可憐なのに、その言動は当主そのものだ。
「拓海、お前はファミリーネームを持っているか?」
ファミリーネーム……あ、苗字のことか。
「吉沢、それが俺のファミリーネーム」
「分かった。吉沢だな。説明はこれで終わりだ。……拓海、ゆっくり休むといい」
席を立ったベリルを、俺はドアまで見送った。
ドアの外にはヴァイオレットが控えている。
俺を見ると、ヴァイオレットは優しく微笑んだ。
俺は頷きドアを閉じた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは『ベリルのことしか考えられない』他2話です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼






