35:じゃあ、誰ならいい?
「……なるほど」
あっさり、リマは引き下がった。
そのリマの頭にシナンはポンと手をのせる。
「リマも彼氏の一人でも作ってみろ。そうすれば世界は変わるぞ。まあ、どうしても相手が見つからないなら、俺が相手を……」
リマがシナンの腕をねじあげていた。
「お~い、リマ、やめておけ。俺は今日からスティラの護衛だぞ? この体はスティラのものだ。傷をつけることは許されんぞ」
口調は軽いし、笑っているが、シナンの瞳は真剣だ。
つまり、ねじあげられた腕は相当痛いのだろう。
リマは、リスのような瞳の、小柄な可愛らしい少女に見える。
だがこうやってシナンの腕をねじあげる姿を見ると、暗殺術に長けた『ザイド』の元メンバーであると、実感してしまう。
「いくら相手が不足しても、シナンはイヤ。絶対にすぐ手を出すから」
リマはそう言うと、ようやくシナンの腕をはなした。
シナンは痛そうに腕をさすり、軽口をたたく。
「じゃあ、誰ならいい? ジャマールか? キャノスか? それとも拓海か?」
リマは大きくため息をつきながら、ソファにどかっと座り、脚を組む。
「はあ。あたしの周りには、男がいなさすぎるのね。その三択しかないなんて」
そうか!? キャノスがいるのだぞ、キャノスが。
どうせキャノス一択だろう。
心の中でそう思ったのだが。
「贅沢を言うな、リマ、この三人はスゴイ。魔術の効かない体質、ヴァンパイと魔法使いのハーフ、それと……人間の三人だぞ」
!? シナンの俺の扱い、酷くないか!?
……でもまあ、魔術が効きにくい体質、なんて中途半端だ。血が特殊といっても、それは人間であるシナンからしたらどうでもいいわけで……。
うーん、俺ってやっぱり異世界でも凡人だな……。
「シナンはあくまでそこから選べという訳ね。そうなったら仕方ない。拓海しかいないじゃない」
そう、キャノスしかいないよな。
う、うううん? 今、俺の名前、言ってないよな!?
「……ほう。ただの人間がいいのか?」
「だって、ジャマールは年上過ぎる。それに嫁いるし」
!! ジャマール、既婚なのか!
「キャノスは……。王子様過ぎて無理。恋人同士がするようなこと、キャノスとはできない。キャノスは観賞用」
!! イケメン王子過ぎると、そうなるのか……。
え、ということは……。
「拓海なら、一切の緊張感なく、なんでもできる気がする」
「あー、なるほど」
リマとシナンの俺の扱い、酷すぎる!!
そんなことを話していると、スティラとベリル達が戻ってきた。
「それではせっかくなので、施設内を案内しますね」
スティラはなんだか憑き物がとれたかのような、スッキリした顔をしている。
「ええ、頼みます」
ベリルの言葉を合図に立ち上がり、俺達はスティラの案内で、施設を見て回った。
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2話目は8時台に公開します。






