30:ベリルの美しい体のラインが浮き彫りに
この日の夜、久々に運動をした俺は風呂から上がると心地よい疲労感に包まれていた。だからベッドで大の字になると、眠るつもりはなかったのだが、ウトウトしたまま眠ってしまった。
「……!」
突然眠りから目覚めた。
しまった。いつの間にか寝ていた。
あれ……?
俺はちゃんと頭を枕にのせ、掛布団の中にいることに気づき、そして誰かいると気配を感じた。
「……誰かいるのか?」
思わず声を出していた。
すると。
「起こしてしまったか」
その声はベリルだった。
俺はサイドテーブルのランプを灯した。
まさに部屋を出ようとしているベリルが、ドアの前にいた。
ベリルはガウンを着ていなかった。ゆえに淡いラベンダー色のネグリジェは、ベリルの美しい体のラインを浮き彫りにしていた。
一瞬見ただけで眠気が吹き飛び、心臓が高鳴り始めた。
分かりやすい自分の変化を誤魔化すように、俺はベリルに声をかけた。
「どうしたんだ、ベリル? 血が必要なのか? それともまた俺の表情観察?」
ベリルはルビー色の綺麗な瞳を伏せた。
「……どちらでもない」
どちらでもない?
そうなるとベリルが俺の部屋を訪問した理由を、全く思いつくことができなかった。
もし今が日中であれば、何か話があってきたのかな、と思うが、今はどう考えても夜も更けた時間だ。
まさかちょっと話をしにきた……そんなわけないだろう。
「ちょっと話をしにきた」
……⁉
絶対違うと思った理由がまさかの正解だった。
「そ、そうか。じゃあ、話をしようか」
俺はベッドから降りると窓際に向かった。
そこには、ちょっとお茶をするのに丁度いいサイズのテーブルと椅子が向き合って置かれていた。
俺の言葉にベリルはすぐにテーブルの方へやってきて、椅子に腰をおろした。
同じく椅子に座った俺は、アイスブレイクのつもりで口を開いた。
「今日はキャノスに誘われて、騎士の訓練に参加したんだ。久々に体を動かしたら風呂上りにすっかり気持ち良くなっちゃって。寝るつもりはなかったのに、寝てしまったみたいなんだ。……ベリルなんだろう? 俺をきちんとベッドに寝かせてくれたのは。電気も消してくれて。ありがとうな」
ベリルはルビー色の瞳を細め、嬉しそうな顔をした。
「今の季節は冷えるから。当然のことをしたまでだ」
そう言うと息を大きく吐いた。
「騎士の訓練はどうだった?」
そこからは俺は今日の訓練の様子、さらにはみんなでボクシングの練習をやったこと、そもそもボクシングとはどんなスポーツであるが、そして明日からみんなで本格的に練習することになったことなどを話した。
ベリルは俺の話を楽しそうに聞いていた。
すべてを聞き終えると、ベリルは満足そうな顔で立ち上がった。
「拓海、ありがとう。明日も練習があるなら今日はゆっくり休んだ方がいい。遅くまで付き合わせて悪かった」
「え、なんか俺ばっかりが話しちゃったけど、ベリル、俺に話があったんじゃ……?」
「いや、これで問題ない。おやすみ、拓海」
ベリルがそう言うとサイドテーブルのランプが消え、部屋は真っ暗になった。
どうやってランプを消したんだ⁉
俺は驚いてランプが置かれている方角を見た。
……もしかして魔術を使った……? いや間違いなくそうだろう。キャノスの魔法といい、ヴァンパイア達が使う魔術といい、便利だな。
そんなことを思いながら、俺は暗闇の中を手探りで進み、ベッドにたどり着いた。
欠伸を一つしてベッドに潜りこみ、俺は眠りについた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『異世界での俺の日常』
『べ、ベリル、どうしたんだ?』
『私がそうしたいと思ってやったことだ』です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼
 






