15:きっちり覚えてくださいね、拓海
サイレントヴィレッジは、デスヘルドルに限りなく近い場所、つまりブラッド国の端にある。
俺達が暮らす街メクレンブルは首都であり、ブラッド国の中心部にある。サイレントヴィレッジに向かい、中心部からどんどん離れるので、大きな街はなくなっていく。
次第に村が増え、それもなくなると、森林地帯が増えてくる。それでも要所には街があり、その周辺には大き目の村もあるのだが……。夕食のこの時間に通過しているエリアは、牧草地帯が広がり、これといった街も村もない。当然、飲食店もない。
結果、利用したのが、キャンピングカー向けのキャンプ場だ。
季節的にあまり利用者はいないが、それでも広大なキャンプ場には、数台のキャンピングカーが止まっている。俺達はマイクロバスだったが、問題なく止めることができ、そこでキャンピング飯を楽しむことになった。
ホリデーシーズンの別荘のバーベキューでは、ベリルは仕掛け人として焦げ肉の山を築いていた。でもこの日の夕食の席では、とても上手に肉を焼いてくれる。
給仕は基本、アレンとカレンがしてくれた。でもベリルはちゃんと料理ができると示したかったのだろうか。
用意されていた鶏もも肉を上手にグリルし、絶品チキンサラダを作ってくれた。
このサラダはアレンやカレンの分もあり、二人とも「ヤバいです。ベリルお嬢様がこんなにお料理が上手ですと、ぼくらはクビになってしまいます」と大騒ぎするほどの美味しさで、リマも「ベリル様を嫁に欲しい」とうっとりしている。
シナンは、「野宿でよく作る」というチーズリゾットを〆(しめ)で作ってくれた。みんなでリゾットを楽しみ、キャンプ飯を満喫した。
食後、男性陣はキャンプ場に併設されているシャワールームを利用し、女性陣はバスのシャワールームを使い、寝るための準備をすすめることになった。
後片付けをアレンやカレンがしている間、キャノス、シナン、そして俺はシャワールームへ向かう。そしてこれは例の件を話す、絶好のチャンスだ。
というわけでキャノスに打ち明けると……。
「……なるほど。正直、驚きました。まさかサイレントヴィレッジの秘密の花園を利用したいとは……。とはいえ、理由は納得できます。婚姻の儀式は新郎のリードが重要ですからね。それに秘密の花園を利用するかどうかは、新郎の意思で決めること。そこは例え主であるベリル様であっても、拓海の気持ちを尊重した方がいいと思います。……とはいえ、ベリル様に相談せずで、本当にいいのですか、拓海?」
そんな風に言われると、迷ってしまう。
本当は、相談した方がいいのではないかと。
いや、でも。
「ベリルは練習ができるものなら、自分がしたいと言っていた。しかも、練習するなら俺ですると……。秘密の花園に俺が行きたいということは、練習をしたい、ということだろう。となるとベリルは、『拓海、練習をしたいなら、私ですればいい』と言い出しかねない……。そんなことしたら本末転倒だ。何より、もし、万が一、ベリルがに、妊娠でもしてしまったら……」
「に、妊娠!? た、拓海、それだけは絶対にダメです。婚姻関係を結ぶ前にはそれはダメですよ! 何より、そんなことになれば、ロードクロサイト様がどう思われるか……」
キャノスが青ざめる。
「ベリル様に相談すると、確かにこじれそうです。……分かりました。サイレントヴィレッジの秘密の花園に行きましょう。ただし、この一度限りですよ。秘密の花園はそう何度も通うような場所ではないと思うので。そしてきっちり覚えてくださいね、拓海」
「お、交渉成立か」
シャワーを浴びたシナンが出てきた。
!!
す、すごい体だ。めっちゃ鍛えていると分かる。筋肉の付き方が一流アスリートと遜色ない。
思わずシナンの体をガン見してしまう。
「うん……? 拓海様はもしかして男の方も興味がおありか?」
「ち、違う!! 単純に俺はボクシングをやっているから、体つきとか見てしまうだけだ!」
そこからはシナンにボクシングについて話し、そうなると動きがみたいとなり……。
俺達は腰にタオルを巻いただけの姿で、シャドウボクシングをするという、実にシュールな状況になっていた。
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時間差でもう1話公開です。
本日もゆるりとお楽しみください。






