7:男のフェロモンが全開
朝、目覚めると、当然のようにベリルの姿はなかった。
でもとても満たされて起きることができた。おかげでアレンが来る前に起床した上に、制服への着替えも終えていた。コーヒーポットを手に部屋に入ってきたアレンは、残念そうな顔をしている。一方の俺は、優雅に目覚めのコーヒーを飲み、朝食を摂るため部屋を出た。
朝食を終えると、早速、幽閉施設のあるサイレントヴィレッジへ向け出発だった。
エントランスホールには、既にアレンがスーツケースを運んでくれていた。
一番乗りでソファに座り待っていると、続々とみんながやって来る。
キャノスは俺と同じ制服姿だ。
白のワイシャツに黒のブレザー、胸のエンブレムはレッド家の紋章だ。黒のズボンに黒の革靴、そしてチャコールグレーのダッフルコート。こう見ると本当にキャノスは高校生にしか見えない。
ちなみに俺はライトグレーのピーコートで、それ以外は完全にキャノスとお揃いだ。
ヴァイオレットとリマはいつもの隊服に、真冬用の黒のロングコートを着ている。
そしてベリルは……。
エンジ色の胸元の大きく開いたドレスに、首元には花の形のコンクパールのチョーカー。Aラインのコートはライトグレーで、首元と袖にグレーの毛皮がついている。コートの色はなんだか俺にあわせてくれたみたいで、思わず頬が緩む。
ソファから立ち上がり、ベリルの所へ行こうとしたその時。
扉を開け、外から中へ入ってきた、長身の男性に目が釘付けになる。
カフェオレのような肌に、艶のある黒髪。
長い黒髪は後ろに一本で束ねられている。
二重の瞳の色はピーコックグリーン、鼻は高く、血色のいい唇で、頬のほくろが目を引く。
白のガラベーヤに金糸で模様が描かれた黒い厚手の上着を羽織っている。ジャマールと同じぐらい身長があり、多分、2メートル近い。
エキゾチックな雰囲気を醸し出すこの男性は、ベリルの姿を見ると、その場で片膝を床につき、跪いた。
そして恭しくベリルの手を取ると、その甲にキスをする。
「ベリル様、『ザイド』のシナンだ。この度、サイレントヴィレッジにある幽閉施設『カトラズ』の施設長スティラの護衛の任に就くことになった。短い道中とはなるが、共にベリル様と旅できること、大変嬉しく思っている」
あれがスティラの護衛につく『ザイド』のメンバーなのか。
とんでもない美貌の青年だ。そしてなんとも男のフェロモンが全開……というか……。
ベリルを見上げるシナンの瞳がなんだか情熱的に感じられ、落ち着かない気持ちになる。
「皆さん、バスは到着しているので、乗車をお願いします! 荷物はぼくとアレンで積み込むので、そのままで大丈夫です」
見るからにバスの運転手という制帽に制服姿のカレンが現れた。
シナンの存在感というか、オーラがすごくて、動けなくなっていた。でもカレンの今の一言で、目に見えない呪縛から解放されたようだ。今度こそ、ベリルのところに行こうとしたら……。
シナンがベリルのことをお姫様抱っこしている。
「シナン、何の真似だ!?」
「今、バスに乗るようにとのことだったので、ご案内しようかと」
「!? バスぐらい自分で乗れる!!」
ベリルが抗議する間にも、シナンはエントランスホールから出て行ってしまう。
「リマ、シナンは随分強引なことをする方のように見えますね」
キャノスにふられたリマは肩をすくめる。
「シナンは『ザイド』の中で、女性のターゲット専門で暗殺をしていたの。通称レディ・キラー。だから女性を見ると、相手の懐に入り込みたくなっちゃうみたい。特に美しい女性には目がないから。ベリル様はかなり美人でしょ」
「なるほど。躾がなっていない犬ですね」
キャノスが珍しく辛辣な表現をしたので、ビックリしてしまう。
「拓海、行きましょう。拓海はベリル様の婚約者なのですから」
「あ、うん」
返事をするなりキャノスに腕を掴まれ、慌てて歩き出す。
カレンとアレンはみんなのスーツケースをバスに運び込もうと、忙しそうに動き回っている。ヴァイオレットはシナンを追い、バスに向かっていた。
今回、カレンとアレンも同行するのか。
アレンもカレンと同じ運転手のような制服を着ているし、二人で交代しながら運転を担当するのだろう。
そう思い、エントランスに出ると、そこにはマイクロバスが止まっている。
普段の移動は馬車だ。
でも今回は距離もあるし、旅行でもないから、のんびりはできない。
しかし乗客は七名程度なのに、マイクロバスとはすごいな。
そんなことを思いながらバスに乗り込むと……。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『俺のベリルに指一本触れさせない』
です。
何が起きた……?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






