28:俺ってこの世界でいち早く死ぬわけですね
翌日。
ベリルは父親であるロードクロサイトと共に一日中会議に出席していた。
一方の俺はスピネルの採血が終わると、暇だった。
するとキャノスが、騎士たちの訓練に参加してみないかと声をかけてくれた。
もし剣や弓や槍を使え、馬に乗れたら……俺、モテるかもしれない。
そんな邪な考えで訓練に参加してみたが……。
予想外に面白かった。
超がつく初心者だったので、武器についてはその扱いの説明からのスタートだったが、その話を聞くだけでもとても新鮮で面白かった。
馬については、いきなり騎乗を許可された。だが馬の動きにまだ完全に体を合わせることができず、お尻が若干痛くなった。
そんな感じであったのだが……。
「拓海は何か運動の経験は?」
キャノスに聞かれ、俺はボクシングをやっていたと伝えた。
だがこの世界にはボクシングというスポーツは存在しないようで、俺が実際に動いて見せると……。
「すごいね。俊敏な動きだし、その拳の繰り出し方。その一撃を受けたら気絶しそうだ」
キャノスは目を輝かせ、俺にボクシングを習いたいと言い出した。
俺はそれを快諾し、午後はキャノスとボクシングの練習をした。
道具が何もないので、ロープを使い縄跳びを飛んでみせると……。
この世界に縄跳びはないのでキャノスはもちろん、他の騎士も何をしているのかと見に来た。
続けてシャドーボクシングを披露とすると、さらに多くの騎士が集まってきた。
俺は自分の動きを真似するようにと伝え、集まった騎士たちと一緒にシャドーボクシングの練習を10ラウンドほど行った。
休憩中に、ボクシングに必要な道具があるとキャノスに話すと、魔法で作りだすことになった。
そこで俺は必死でイラストを描き、どんな素材でできているかをキャノスに説明した。
日が暮れる頃には、サンドバッグ、グローブ、ヘッドギア、ボクシングミット、ボクシンシューズ、バンテージなど必要な道具に加え、リングまで魔法で作り出してくれた。
……魔法って便利過ぎる。
いろいろ装備が揃うと、ヴァイオレットやバーミリオンまで興味を持ち、明日から本格的にボクシングの練習も行うことにした。
◇
夕食の後、いつも通り隣室へ移動した。
皆、ソファに座りワインを傾け、おしゃべりを始めた。俺の隣には隊服姿のヴァイオレットが座った。いつもベリルのそばにいるヴァイオレットが、俺の隣にいるというのは相当珍しかった。かつ、俺は初対面の印象でヴァイオレットは苦手……というかなんだか怖かった。
だが、この日、俺のその印象はガラリと変わった。
「拓海は酒を飲まないのか?」
警戒している俺に対し、ヴァイオレットは普通に話しかけてきた。
「そうですね。俺がいた世界では20歳にならないと飲めないので……」
「20歳で酒が飲めるのか⁉」
「え……」
「20歳と言えば、まだ赤ん坊のようなものではないか」
「あの、俺の世界では女性に年齢を聞くのはタブーなんですが」
「ここでは別にタブーではない。私は251歳だ」
俺は手に持っていたココアを危うくこぼすところだった。
「え、みんなそれぐらいの年齢なんですか⁉」
「ベリルは230歳、スピネルは279歳、キャノスは247歳、バーミリオンは310歳だ」
「そ、そうなんですね……」
衝撃的だった。ヴァンパイと人間とでは時間の流れ方が違うんだ。
「拓海は今、何歳なんだ?」
「俺はですね、元いた世界の年齢で言うと17歳です」
「17歳……」
ヴァイオレットが衝撃を受けた顔をした。
「拓海、お前がいた世界では何歳から結婚ができるのだ?」
「えっ、それは18歳です」
「18⁉」
ヴァイオレットは葡萄色の髪を左側で三つ編みにし、綺麗な紫水晶のような瞳を持ち、肌も白く、騎士とは思えないスリムで美しい少女だった。
そのヴァイオレットがこんなに目をむいて驚いた表情をするとは……。
よっぽど衝撃的な情報だったようだ。
だが、ワインを一口飲み、落ち着くと、こう口にした。
「感覚として、拓海の年齢の1の位を四捨五入するとこちらの世界の年齢に当てはまると思う。逆に我々の年齢は1の位を四捨五入すれば、拓海のいた世界の年齢に近しくなると思う」
「となると俺は今……2歳」
ヴァイオレットが美少女概念を覆す表情で笑いを堪えていた。
「俺のいた人間の寿命は長くて100歳ぐらいなんです。いずれにせよ、俺ってこの世界でいち早く死ぬわけですね」
俺の言葉にヴァイオレットは堪え笑いを止めた。
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本日もゆるりとお楽しみください。
「堪え笑い」は造語で、堪えながらも笑っている状態という意味で使っています。






