92:恐ろしいほどテンションが低くなる
ベリルと俺が退院したことは、既にロードクロサイト夫妻に知らせされている。だから玄関ホールに着くなり、ロードクロサイトの執事に迎えられた。そしてそのまま、ロードクロサイトの執務室に案内される。そこには珍しく、ロードクロサイトの奥方もいる。
夫妻はベリルの無事を喜び、俺も感謝の言葉で迎えられた。
「退院したばかりだ。ベリル、少し休むか?」
ロードクロサイトに尋ねられたベリルは首を振る。
「いろいろと報告や話し合うべきこともあると思うので、このまま会議で構いません。何より拓海の血のおかげで、万全の状態ですから」
「そうか。では昼食までの間、会議を行おう。カーネリアンも呼ぶから、ベリル、そなたは先に会議室へ。テオ、カーネリアンを呼んできてくれ。ゼテク、君も会議に。ヴァイオレット、キャノス、リマ、お前たちは寝ずで病院に詰めていたと聞いている。休息をとるとよい。ベリルの護衛はこちらで手配する。拓海は……」
ロードクロサイトが俺を見る。
「新しく君の部屋を用意した。アレンかカレンに案内させよう」
そう言うとロードクロサイトは、電話を手に取った。
◇
会議が終わり、昼食が終わったら、ベリルの部屋でのんびりできると思っていた。
もちろん、午後も会議かもしれない。
それなら午後の会議の後、夕食までのひと時を、ベリルの部屋のソファで一緒に過ごせたらと思っていた。
だが。
ロードクロサイトに、「新しく君の部屋を用意した」と言われてしまった。やんわり、これ以上、婚姻前の娘の部屋で過ごすのは見過ごせない、と警告されている気がする。
だから。
ロードクロサイトの執務室にせっかくアレンが迎えに来て、いろいろ話しかけてくれても、浮かない反応しかできない。
「拓海様、恐ろしいほどテンションが低いのですが。そんなにベリルお嬢様の部屋が気に入っていたのですか?」
アレンが思わずそう指摘したくなるぐらい、俺は落ち込んでいた。
「それは……。嫁入り前のベリルの部屋に、そういつまでもいることはできないと思っていたし、俺の部屋は新たに用意されると聞いていたし、それに……」
「拓海様!」
「は、はいっ」
アレンは尻尾をひとふりして俺を見た。
「気落ちするのは部屋を見てからにしては?」
「……!」
「落ち込むのは部屋を見てからでも、いくらでもできると思いますよ」
それは……確かにそうだ。
もしかしたら俺のために、国宝級の壺とか絵画が飾られている部屋が用意されているかもしれない。それに何も部屋の行き来を禁じられたわけではない。会いたければベリルの部屋に行けばいい。これまでみたいにベリルが俺の部屋に来ればいい。
そうだ。いつだって楽観的に物事を見るのが、俺の長所だったはず。
「ありがとう、アレン。新しい部屋、楽しみだよ」
ようやく笑顔になった俺を見て、アレンは安堵の表情になる。
こうしてアレンに案内された部屋は……。
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次回更新タイトルは
「イケナイことをしたくなる情報が……」
です。
新しい拓海の部屋とは……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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