91:照れくさいけど、この上なく幸せ
病院を出て、ベリルと俺が手をつないで歩いていても、後に続くヴァイオレットとキャノスも、ゼテクとリマも、何も言わない。
堂々とみんなの前で手をつなげるのは……嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったいような。とにかく照れくさいけど、この上なく幸せで、俺の頬は緩みっぱなしだ。その緩みがちな顔を引き締めようと、俺はベリルに尋ねる。
「カルロスの処遇は決まったけど、残りの二人の『パンドラ』のメンバーは、どうするつもりだ?」
「それは……この後、父上と兄上と、あとはゼテクを加え、話し合うことになるな」
「ブノワは? ブノワはどうなる?」
ブノワの名にベリルは、ウンザリという表情を浮かべた。
「……ブノワは今、どこにいるのか確認していないが……。私刑にするわけにはいかないからな。まあ、幽閉施設行きになると思う。だがそうなるとまず、スティラの対処をしなければならない。ブノワには魔術が残っていた。魔力剥奪だったのに、なぜ魔力が残っていたのか、その辺りをスティラに聞かねばならないし」
「ベリル、その件はブノワ本人に聞いた。ただ、アイツが盛っている可能性もある。アイツのいいように捻じ曲げられている部分もあるかもしれないけど……」
ひとまずブノワが話していたことを聞かせた。
「……なるほど。ブノワの美貌に籠絡されたのか。まあ、ブノワは女に関しては手練手管だからな。対してスティラは……確かに結婚もしていないし、恋人がいるという話も聞いたことがない。ブノワにほだされ、魔力を残したのだとしたら……厄介だな。それこそキャノスにブノワの記憶を消させ、真面目で一途そうな男をスティラに紹介した方がよさそうだ。二度とこのような事態になりたくないからな……」
ベリルは困ったことになったとため息をつく。
「幽閉施設の施設長を、別の魔法使いに交代できないのか?」
「そもそも論だが、魔法使いは誰かに仕えることを好まない。さらに場所が場所だ。デスヘルドルに近い場所なんかに行きたがる者は少ないからな。スティラが施設長を放棄したら……まあ、ブラッド国のヴァンパイアで運営していくしかない。魔力の剥奪はゼテクかキャノスに頼むしかない」
ヴァンパイアに協力してくれる魔法使いが希少であるのだと、改めて実感してしまう。
レッド家でさえ、魔法使いと言えば、キャノスとゼテクしかいない。他の有力ヴァンパイアに魔法使いが仕えているという話も聞いたことがない。
実は、魔術の効かない体質より貴重なのでは……。
そんなことを思いつつ、気になっていた件をベリルに聞いてみる。
「ブノワの牙は全部折れたのだろう? もう一度生え変わるとか、ないのか?」
「それはない。ブノワはもう二度と吸血はできない。今度こそ、魔力も全て剥奪するし、ヴァンパイアとして完全に終わるはずだ。それに金輪際、私にも拓海にも、指一本触れさせない」
つないだ手にベリルは力を込めた。
熱い想いは、その怪力からもよく伝わる。
「どうした、拓海?」
「いや、その……」
目線だけ手に向ける。
「ああ、すまなかった」
ベリルはそう言うと、力を緩め、不意に俺の手を持ち上げた。手首に巻かれた包帯に、ベリルは優しく口づけする。
「もう少しだから、拓海。あんな鎖など、自分で簡単に壊せるようになる」
ルビー色の瞳が愛おしそうに俺を見る。
そんな表情で見られると……。
今すぐベリルを抱きしめたいという衝動に駆られてしまう。
でも……。
手をつなぐぐらいならまだしも、みんなの前で抱き合うのは……。
熱い想いを飲み込み、ベリルに尋ねる。
「そうだ、マリーナはどうなる?」
「マリーナも一度は司法の裁きを受けることになるが、情状酌量の余地があると思う。ブノワにより、長年虐待されてきたも同然だからな。それに私はマリーナが困っているなら、助けると約束している。今回の拓海の救出にも協力してくれた。マリーナが不幸にならないよう、出来る限りをするつもりだ」
そこまで話したところで、見慣れた邸宅が見えてきた。
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