85:言葉巧みに絡めとる
レッド家の次期当主カーネリアンの婚約者の三騎士の一人に、『ザイド』のメンバーが選ばれた。しかもそれは、現頭領ゼテクの孫娘のレイラであると。そして婚約者の三騎士が女性であれば、それはカーネリアンの愛妾に過ぎないと言い出したのだ。婚約者は結婚し、やがて後継ぎを身ごもる。その間、カーネリアンのお相手を務めるのが、妻の三騎士の女性騎士なのだと。
そんな話、聞いたことがない。
だがブノワは……。
「ブラッド国は正妻との離婚を認めていない。その代わり、愛妾や情夫を認めている。身ごもっている間に、娼婦に手を出されるより、身元もハッキリし、後腐れもない妻の三騎士を愛妾にするのは、高貴な貴族の家では当たり前のことだ。でもそんなこと、庶民が知る由もない」
さらに。
「ゼテクも本当は大事な孫娘を、カーネリアンの愛妾にしたいとは思っていない。何より、誇り高い鮮血の暗殺者である『ザイド』が、レッド家の犬にされていることに納得していない。ぼくは君たちのことを、ゼテクに知らせた。すると彼からビデオメッセージが届いた」
そう言ってブノワは、ゼテクのビデオメッセージをカルロスとナジールに見せた。
その映像でゼテクは、追放したことを謝罪し、狂殺者の扱いが間違っていたと認めていた。その上で、自分達を助けて欲しいと涙ながらに述べた。特に、未婚のレイラが、いつかカーネリアンの愛妾になるのは我慢できないと訴えた。もし、レッド家から解放してくれたら、全員『ザイド』に戻ることを認める。勿論、レイラとの結婚も。
この頃、カルロスもナジールも既にブノワを信じていた。よってビデオメッセージが偽造されたものと疑うことはなかった。それどころか「君のレイラへの純愛をぼくは知っている。だからこの件は見過ごすことができない。ぼくはブルーノ家のヴァンパイアだ。だからブラッド国に『パンドラ』のみんなが乗り込むというのなら、船を手配し、上陸できるよう、手配しよう。必要な資金も提供する。レット家の犬にされた『ザイド』の仲間を救い出そう。これは救済だよ、カルロス」そんな申し出をブノワはしたのだ。
こうしてカルロスは、ブノワの手の平で転がされることになる。
つまり、ブノワの申し出を、カルロスもナジールも有難く受け入れてしまうのだ。
加えて、「ぼくは魔力を剥奪され、国外追放されたからこそ、君たちと知り合うこともできた。だからもうそれで満足しようと思っていた。でも『パンドラ』がレッド家に乗り込むと言うなら、一つ頼まれてくれないか。ぼくを貶めた悪女、ベリルに復讐をしたい。そのために、魔術の効かない体質の拓海を、レイラをさらう時に、一緒に連れて来て欲しい。後日、ベリルを誘き出すことに成功したら、その魔術の効かない体質は君たちに譲る。君たちには魔術の効かない体質は貴重な存在なのだろう?」そんな提案を受けても、快諾していた。
ちなみに俺は魔術が効きにくい体質だが、ブノワは俺が無傷で助かったことから、魔術の効かない体質と思い込んでいた。
完全に転がされていたカルロスとナジールは、ブノワが謙虚なヴァンパイアだとさえ考えるようになっていた。
拓海という魔術の効かない体質をさらってほしい。そのついででレイラをさらえばいい。
人間を供物――食料と考えるヴァンパイアだったら、そんな発想になるはず。
さらに魔術の効かない体質が手に入ったら、あらゆる暗殺組織に高値で売りつけることもできる。だがそれをせず、『パンドラ』に譲るというのだ。
カルロスもナジールもブノワの心がけに感動し、魔術の効かない体質……つまり俺をさらうと心に誓った。
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