78:全てを話そう
ブノワの逃走を助け、なんとか倉庫に辿り着く。
レッド家の追跡は、とんでもなく凄まじいものだった。
何度も、もうダメだと思う瞬間があった。
それなのに倉庫まで辿り着けたのは、ブノワの尋常ならざる魔術のおかげだ。
魔力は10%しか残っていない。
ブノワはそう言っていたはずだ。
だがさっきの戦闘を見る限り、とても10%の魔力とは思えない。
決闘があったあの日。
ケルベロスを召喚した時。いや、その時以上の魔力の強さだ。
飛行を続けながら、魔獣や霊獣を召喚した。
数十体のセイレーンとシーホースを召喚し、さらにスキュラまで召喚しようとしたところで、倉庫の敷地に到着できた。そこは、ブルーノ家とテルギア魔法国の交易品を格納する倉庫。その土地の権利は、ブノワとヤナという魔法使いが所有していた。だが、ブノワは国外追放になり、ヤナもブノワとの交易がなくなり、打ち捨てられた場所になっていた。打ち捨てられたとはいえ、ヤナは変わらず土地の権利を持ち、ブノワからブルーノ家に権利が移った後も、そのままになっている。
そこがブルーノ家の土地であれば、そのままレッド家の騎士は、ブノワを追うことができた。だが、魔法使いが、テルギア魔法国が絡むとなると、迂闊には手を出せない。
しかも敷地には『パンドラ』のメンバーが潜んでいる。
レッド家は一旦、退却を余儀なくされた。
まんまと逃げおおせたブノワは、レッド家から連れ去ってきた美少女を、鎖で吊るした。聞けばその美少女は、祖先にヴァンパイアを持つらしく、その血が上質なのだという。
見舞い代わりでベリルはこの美少女を、ブノワが治療を受けていたレッド家の病院へ送り込んだらしい。そしてブノワは、その美少女に吸血するよう言われた。吸血した瞬間、全身に力がみなぎり、魔力が回復したような気持ちになった。ベリル以来の極上の血を口にしたブノワは、吸血行動を抑えられなくなる。止めようとする者を振り払い、その美少女を連れ、逃走を図ったというわけだ。
この美少女の血は、ただの人間の血ではない。レッド家の魔力が強いのは、この美少女のおかげだ。
そうブノワは言った。
その後は自身に刺さった矢を抜くよう、ブノワはマリーナに指示を出す。そしてそれが終わると、ブルーノ家に行き、あの伝言を報告するよう命令された。
「今すぐぼくの家に向かい、父君に伝えてくれ。レッド家の秘密を掴んだと。これですべてを覆せるし、我が家は最強になれる。だからぼくが敷居をまたぐ許可を出してくれと」
重い気持ちで倉庫から出て、ブルーノ家に向かおうとしばらく飛行を続けたところで、ベリルにマリーナは声をかけられた。
マリーナは心底驚いた。
ブノワに協力していることを責められると思った。だがベリルは……。
「今日の午後、私を訪問してくれたと聞いている。昨晩いろいろ問題があってな。警備が厳しくなっており、迅速に対応できなかった。私の手紙を読んだのだろう? そして私を尋ねて来てくれたのだろう? 助けが必要だったのに、すぐに対応できず、すまなかった」
そう謝罪された時、マリーナの心は決まった。
ベリルに全てを話そうと。
この時点でベリル達は、俺を、ダリアをさらった犯人が何者なのか、見当がついていなかった。
ブルーノ家とテルギア魔法国が共同所有する土地に逃げ込み、マリーナと行動を共にしていたことから、ブルーノ家の誰かが犯人とは予想していた。でもそれがブノワだとは、思ってもみなかった。
しかもその倉庫の敷地に、レッド家を襲撃した元『ザイド』のメンバーや狂殺者がいる理由も、まだ解明できていない。
何より、倉庫に踏み込みたいが、テルギア魔法国の誰があの土地を所有しているのか、それも判明していない。それを知るため、ベリルはブルーノ家に向かっているところだった。
それを理解したマリーナは、ヤナという魔法使いの名をすぐにベリルに伝えた。
ベリルはすぐにゼテクにヤナの名を伝え、ゼテクがヤナに連絡をとることになる。ヤナとの連絡がつくまでの間に、マリーナは、ブノワの陰謀を洗いざらい話した。
それを今、ベリルが俺に、聞かせてくれていたのだ。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
「拓海もすっかりその気分なのか」
です。
アレンとカレンに焚きつけられた拓海は……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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