76:破かれた手紙
ブノワの企みが成功するかどうか。それについてマリーナは半信半疑だった。
ただ、魔術の効かない体質の狂殺者は、相当厄介だとは、騎士でもあるマリーナも認めざるを得ない。
その一方で、あのレッド家である。
相当な警備体制が敷かれていることは、間違いない。
例え不意打ちであっても、多くの犠牲がでるのではないか。
『パンドラ』のリーダーの恋人であるレイラは、助けに来たという青年に、ついていくかもしれない。でも三騎士に選ばれたというからには、主へ忠誠を誓っているはず。いくら相手が恋人だったとしても、ついていかない可能性もある。
それにあの拓海というベリルの婚約者。
ただの人間でありながら、体を張ってベリルを守ろうとしたあの男は、そう簡単にさらわれるわけがないと思った。しかも過去に『ザイド』の魔術の効かない体質を倒したという噂も、聞いたことがある。
襲撃がうまくいっても、二人の人間をさらうのは、困難ではないか。
そう思っていた。
予想外だったのは、ろくに魔力がないブノワが、レッド家に乗り込んでいたことだ。高みの見物をしているものと思ったから、意外だった。
襲撃が行われた日の夜。
マリーナは、さらった人質を閉じ込めるための倉庫に、待機していた。
襲撃開始から2時間以上経ってから、『パンドラ』のリーダーと数名の元『ザイド』のメンバーだけが戻ってきた。
その姿を見て、襲撃が失敗したと思ったのだが……。
リーダーの青年は、マリーナにこう話した。
「あの方は無事、レッド家に入り込むことに成功しました。あの方はとても賢い方です。万が一襲撃が失敗し、レイラと拓海を連れ去ることがかなわなくとも、嘆く必要はないと。自分が内部に入り込み、手引きをする。そこからが本番だと、おっしゃいました」
つまり。
レッド家の騎士をひとり、秘密裡に亡き者にする。そしてその遺体を隠し、ブノワはその騎士になりすます。なりますために、顔に怪我を作る。本当は自慢の顔を傷つけたくなかったが、背に腹は代えられない。いざとなれば魔法使いに金を積み、顔に魔法をかけ、傷を隠すこともできると考えた。
魔力が極端に落ちているのは、怪我のせいにする。
何も知らないレッド家は、自分のことを手厚く看護するだろうと、ブノワは『パンドラ』のリーダーに話したのだという。
あのブノワにしては、ない知恵を絞ったものだと、マリーナは思った。
だが、よくよく話を聞くと、この策を考えたのは『パンドラ』のリーダー。ただブノワに手柄を譲っているだけだ。
ひとまずこれ以上の動きはない。
だからマリーナは、一度家に帰ることにした。
家に帰ったマリーナは、弟からとんでもないものを受け取ることになる。
それは破かれた手紙だ。
弟によると、マリーナ宛の手紙だったので、部屋に届けようとした。しかし酒に酔った父親が絡み、手紙を奪い取った。そしてレッド家のシグネツトリングの封蝋がついていることに気づいた。父親は「レッド家から何の手紙だ!? 俺達を断罪するつもりか!?」そんなことを叫び、手紙を破ってしまう。そしてごみ箱に捨ててしまった。
レッド家からの手紙。
何か大切なことが、書かれているのではないか。
弟は、こっそり父親がいない時に、ゴミ箱から手紙の破片を拾い集めた。さらに時間をみつけ、破片を貼り合わせてくれていたのだ。
感謝を弟に伝えると、マリーナは、受け取った手紙を慌てて確認した。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
「大丈夫。きっとうまくいく。」
です。
手紙には一体、何が書かれていたのか……?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






