67:さようなら、ベリル……。
人は最期の瞬間に、走馬灯を見るという。
それは死を回避するための、最後のあがきだというのだが。
幸いなことに俺の脳裏に映るのは、すべてベリルの姿だ。
初めて出会った時。
突然ベリルにお姫様抱っこをされ、思いっきり驚いた。
童貞で死にたくないと嘆いた。
……でも結局、童貞のまま死ぬのか。
真夜中に突然部屋にやってきたベリルは、俺の恍惚とする顔を見たいと言い出して。
ブノワとの決闘の準備をしているベリルは、いつも疲れて切っていて。
俺に自分にまたがれとか言い出すし。
箱入り娘なのに。
ああ、あの時だったな。俺人生初の生バストの感触。
倒れそうになったベリルを支えたら、あの弾力のあるバストが俺に触れて……。
決闘ではブノワのバカ野郎が禁忌をおかし、決闘の勝敗の後に、ベリルを攻撃した。俺はその攻撃からベリルを庇おうとして……。「お前はなんて向こう見ずな奴なのだ」そう言ってベリルに抱きしめられた俺の顔は、あの弾力のあるバストに押し付けられて……。
いや、俺、最期だって言うのに、ベリルの胸のことばかり思い出しているな。
でもな、俺、思春期だし。結局童貞だし。
……。
あと2カ月したら、18歳だった。
元いた世界の法律的にも、結婚できる年齢になるのに。
せっかくベリルも俺のことを好きと言ってくれたのに。
容姿も完璧。性格も完璧。魔術も完璧。
まさに女子が選ぶ理想のヴァンパイア第一位のクレメンスではなく、ベリルは俺を選んでくれたのに。
あのロードクロサイトも俺を認め、結婚の許しも出たのに。
『誕生の証』をベリルがつけてくれた朝のことを思い出す。
――
「拓海」
俺の名を呼びながら、ベリルは首につけていた細いシルバーの鎖状のネックレスを外した。
「これをお前につけておく」
ベリルは腕を伸ばし、俺の首にネックレスをつけた。
「それを私だと思うといい。寂しくなったらその鎖に触れ、私のことを思い出せ」
――
今、ここにベリルはいない。
最期に、あのネックレスに触れることができたら、ベリルのことを感じられるだろうか。
あ、でも手には鎖が巻かれているから、無理か……。
ガリッという音と、ボキッという嫌な音が聞こえた。
首筋に温かい液体が伝う。
ついに吸血が始まったのか。
「ふがへるな」
なんだか変な叫びが聞こえる。
俺は閉じていた目をゆっくり開けた。
……!
ブノワが口を両手で押さえていた。
その手から血がどんどん流れ落ちている。
もう、そんなに吸血したのか。
ブノワが視界から消えた次の瞬間。
ブタのような悲鳴が聞こえた。
……。
これが俺の人生最期なのか?
変な悲鳴を聞いて、これでシ・エンドなのか?
怒りが沸々とわいてくる。
……ブノワ、お前、ヴァンパイアなんだから、吸血する時、魔力を注入しろよ。
せめて昇天させて逝かせてくれよ。
大きくため息をついた。
「拓海」
……!
ベリルの声が聞こえた。
ブタの悲鳴で終わりたくないという強い願望が、幻聴をもたらしてくれたのか。
最期に聞けた声がベリルなら、もう思い残すことはない。
再び目を閉じる。
目を閉じた瞬間に、首筋から流れ落ちる血を感じた。
さようなら、ベリル……。
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