61:な、な、な……!!
リマにつねられた腰の辺りは、まだ痛かった。
でも、部屋に入ってきたウォルトの姿を見たら、そんな痛みは吹き飛んだ。
かなりよくなったと聞いている。
だがまだ顔には包帯が巻かれていたし、それ以外の場所にも、怪我の痕が沢山ある。
痛々しい姿だった。
看護師に付き添われたウォルトは、診察室に入ると、そのまますぐに俺の前の丸椅子に座る。フローライトはウォルトのそばに行き、問診を行い、続いてスピネルが俺のことを紹介した。
ウォルトはほとんど声を発さず、頷き、首を振ることしかしない。
「じゃあ、始めましょうか」
スピネルがウォルトの背後に控え、俺はウォルトと向かいあった。
黒髪で碧い瞳のウォルトは、覇気のない顔で俺を見る。
弱々しい。
血も魔力も本当に沢山失ったのだろうと思えた。
「ウォルトさん、大丈夫ですよ。私の血を吸ってみてください」
俺は右手をウォルトに差し出した。
ウォルトは無言で俺の腕を掴むと……。
!!
な、な、な……!!
物凄い勢いだった。
ただただ一方的に、貪るように吸血されている。
枯渇しているからか、魔力の注入はほとんどない。
だがクンツのように牙は大きくないので、痛みはほぼない。
だから魔力の注入がなくても問題はないのだが……。
まるで俺の体から、すべての血を吸い尽くさんとするかのような勢いだ。
魔力を与えられることもなく、血だけをどんどん奪われていく。
本能的に恐怖を感じた。
たまらず左手で右腕をつかみ、引っ込めようとする。
だが、思いがけない力で右腕を押さえつけられた。
「ちょっと、ウォルトさん、もう止めましょうか」
スピネルの目つきが変わり、すぐにウォルトの目を手で覆ったが……。
ウォルトは口を開かず、吸血を続けている。
「スピネル!」
我慢できず叫ぶと、スピネルが白衣のポケットから素早く注射器を取り出す。
そして注射器をウォルトに刺そうとした。
だが。
ウォルトは手でスピネルを突き飛ばした。
フローライトが駆け寄ると、ウォルトは突然立ち上がる。
牙は俺の手首に刺さったままだ。
急な動きにより、手首に激痛が走る。
仕方なくウォルトの動きにあわせ、俺も立ち上がることになった。
すると次の瞬間、ウォルトは信じられない勢いで、フローライトの腹部に蹴りを入れた。
!!
な、女性を蹴るなんて。
瞬時に怒りが沸いた。
動く左手で拳を作り、がら空きの左ボディを狙い、渾身の一撃を加える。
その瞬間、リマがウォルトの足払いをしてくれた。
この同時攻撃が効いて、ウォルトが俺の手首から牙を抜いた。
ボクシングの腕の動きの要領で、素早く右手を引っ込める。
ウォルトが吸血した痕から、血が流れて出ている。
リマは床に倒れたウォルトの喉を圧迫し、気絶させようとしていたのだが……。
ウォルトはさっきまでの弱々しさから一転、リマの腕を掴むと、片腕でだけで軽々とその体を投げ飛ばす。
咄嗟に飛んでくるリマを受け止め、二人でベッドに倒れこんだ。
立ち上がったウォルトが俺とリマの方へ向かってきたが、それをスピネルが羽交い締めで止める。
そこにフローライトが注射器を手に駆け寄ろうとしたが……。
またも蹴りを繰り出そうとした。
だがフローライトは、それを器用に避ける。
しかし次の瞬間、ウォルトは羽交い締めをしていたスピネルの腕を引きはがし、まさかの背負い投げで、フローライトの方へ投げつけた。
リマが起き上がり、曲刀を手にウォルトに向かう。
ウォルトは素手のまま、曲刀の攻撃を避け、呪文を唱えた。
だがリマは、魔術が効かない体質。
そのまま曲刀を手に、攻撃を続ける。
何か武器になるものがないか、ベッドの周りを見るが、枕ぐらいしかない。
「ダリア」
本名の「拓海」で呼ばれていれば、即反応できた。
だがダリアの名には、まだ慣れていない。
ダリア?
得意の瞬発力と運動神経の良さを、残念ながら発揮できなかった。
最後に聞いたのはリマの「ダリア」という声。
突然後頭部に激痛を感じ、目の前が暗くなった。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
「異様な光景」
です。
豹変したウォルト。拓海はどうなる!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






