59:すごい! 本当にしゃべった
クリーム色の病衣を着たルチアは、昨日より元気そうに見える。
フローライトはルチアに問診を行い、そして今回の経緯を説明した。
すると。
「本当ですか!? ベリル様がわざわざ……。とても光栄です。これは怪我の功名ですね。わたし、ついています!」
ルチアはとても喜んでくれた。
「彼女はダリア。祖先にヴァンパイアがいたようで、血が普通とは違うの。だから大量の摂取はせず、私が止めたら、吸血を止めるようにしてね」
診察室に設置されていたベッドに腰をおろす俺のことを、スピネルがルチアに紹介した。
その俺を見たルチアは……。
「わあ、なんてグラマラスなの!! それになんか生気がある。彼女の血を吸ったら……確かに元気になりそう」
ルチアは嬉しそうに微笑み、スピネルを見る。
「ええ。上質な血よ。吸血は手首から行ってあげてね」
「分かりました」
返事をしたルチアは、俺の正面に置かれた丸椅子に座る。
「初めまして、ダリア」
「初めまして、ルチアさん」
「すごい! 本当にしゃべった」
ルチアが目を丸くする。
「そうね。珍しいでしょう。さあ、ルチア、吸血して」
スピネルに促され、ルチアが口を開く。
「……ダリアさん、あまり痛くならいようにするから、いいかしら?」
俺は頷き、左手を差し出す。
ルチアは俺の左手を持つと、躊躇なく牙を立てる。
首筋と違い、痛みも弱く、送られてくる魔力による快感も緩やかだ。難なく快感をコントロールし、吸血するルチアを見守る。
「はい、ストップ」
スピネルがルチアに声をかける。
が。
ルチアは夢中で吸血をしている。
俺はスピネルを見上げる。
スピネルはため息をつき、ルチアの背後に回ると……。
ルチアの目を手で覆った。
突然視界を遮られたルチアは、驚いて口を開く。
その瞬間、ぐいっと体ごとルチアを俺から離した。
ルチアは小柄な女性だが、精鋭騎士だ。
筋肉もあるし、スピネルよりも力がありそうだったが……。
スピネルはルチアの足が浮くぐらい、彼女の体を持ち上げていた。
改めてスピネルもヴァンパイアなのだと実感する。
「ルチア、もうお終いよ」
「……! す、すみません。スピネルさん。その、私……」
「大丈夫。上質な血だから、つい、止まらなくなるわよね」
スピネルがルチアの体を床に下ろした。
「……はい。つい、我を忘れて……。すみません」
ルチアは分かりやすく落ち込んでいる。
「気にしないで。そのために私がここにいるのだから。……それでどうかしら? 元気は出た?」
「はい。信じられないぐらい、力がみなぎったように感じています。なんだか魔力も回復したみたいな気もしますが、まさかそれは」
「そうね。さすがにそれはないと思うけど。でも、元気になってよかった」
スピネルは微笑んだ。
「ベリル様によろしくお伝えください。一線からは外れるかもしれませんが、回復したら引き続きレッド家に、なんらかの形でお仕えしたいと思っています」
ルチアは姿勢を正してスピネルを見る。
「ええ。伝えておくわ」
「ルチアさん、それでは部屋に戻りましょうか。また夕方の回診でお薬と検査用に採血をしますから、それまでは安静でお願いしますね」
フローライトが言うと、看護師がルチアを連れ、診察室から出て行った。
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