58:一週間ぐらい私の部屋に閉じ込めて……
昼食を終え、昨日と同じく、スピネル、リマと共に病院へ向う。
だいぶ見慣れた隊服姿のリマは、昨日に比べ、妙におとなしい。
「リマちゃん、どうしたの? 今日はやけにおとなしいわね」
スピネルが思わず指摘するほどのおとなしさだ。
「……なんだか、調子が狂って……。拓海がそんな状態だと」
リマは俺をチラッと見るが、いつものようなキツイ目つきではない。
「話し方も仕草も、女子そのもので。変身魔法が使われているって分かるけど、なんというか……」
「まあ、リマちゃんにそう言ってもらえると、私も頑張った甲斐があるわ~。何せ時間がなかったから、かなりスパルタにやらせてもらったけど……。本当は、一週間ぐらい私の部屋に閉じ込めて、じっくり調教したかったわ」
紅いフレームの眼鏡越しに、スピネルの瞳が妖しく光る。
背筋が寒くなり、この恐ろしい話題から逃れようと質問する。
「ス、スピネルさん。私の血を分け与えるのは、ルチアとクンツともう一人でしたよね。もう一人の方は、どんな方ですの?」
なぜそんな質問をするのかというと。
もう一人の騎士は、顔面にかなりの傷を負っていたのだ。だから昨日、訪問した際は直接会うこともできず、ガラス越しにその姿を見るだけだった。ただ名前がウォルトである、ということしか聞いていない。
「ああ、ウォルトね。彼は精鋭騎士ではなく、通常の警備の騎士だったの。精鋭騎士でもあれだけの怪我を負う事態だったから、ただの騎士ではね……。可哀そうなことになったと思うわ。顔の傷がひどくて、吸血もできないから、失った血は輸血でまかなうことになったし。元々魔力がそこまで強いわけではなかったようね。その上で今回の大怪我で、かなりの血と魔力を失ったみたいで……。でも今朝確認したら、顔の傷もかなり落ち着いて、拓海くんからの吸血もできる状態だそうよ」
「そうなのですね。そこまで回復したなら、よかったですね」
そんなことを話しているうちに、病院の建物が見えてきた。
入口には、昨日と同じ装いの、フローライトが待っていてくれた。その傍には、ムーングレイの上下の作業服姿の、看護師の男性もいる。
「お姉さま、お待ちしていました。この方が……。ベリル様が召喚された、供物の人間の方ですね」
フローライトが俺のことを、興味深そうに見ている。
「そうなのよ。ただの人間ではないの。供物なのに会話もできる。それにどうも祖先にヴァンパイアがいたようで、血が普通と違うというか。とにかく上質。だから傷が深く、血を多く消失してしまったルチア、クンツ、ウォルトの三人に、血を与えてみて欲しいと」
「そうなのですね。ベリルお嬢様からの差し入れとなれば、三人とも喜ぶと思います」
フローライトはそう言ってから、俺達の周囲を確認した。
「何、フローライト?」
「あ、その、拓海様はいらっしゃらないのかなと。リマさんは、拓海様の護衛で昨日来ていたと思うので」
!!
ドジっ子のイメージが強いが、カーネリアンの専属医だけある。
昨日、リマのことを紹介した時は、ただの護衛としか紹介していない。でもリマの動きをちゃんと見ていたのか。
「拓海くんは今日、部屋にいるわ。ベリル様との婚儀もあるから、レッド家の歴史について勉強しているみたいね。リマちゃんは、私とこちらの供物のダリアの護衛でついてきてくれたの。私は非戦闘員で、非力だからね。守ってもらわないと」
「そうでしたか。……では三人のところに案内しますね」
フローライトが歩き出し、俺達はその後に続く。
俺達が案内されたのは、フローライトの診察室だ。
そこで待機していると、看護師に連れられ、まずルチアが入ってきた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
「すごい! 本当にしゃべった」
「異性として意識する気配をビリビリ感じる」
です。
美少女に変身した拓海、どうなる!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






