50:リマはすごいな
「生け捕りにした襲撃者は、突然苦しみだして亡くなったと聞いていたから、てっきり自身で仕込んでいた毒で亡くなったのかと思ったのよ。でも全員、眼瞼結膜に、針の先ほどの大きさの溢血点があったの。それですぐに解剖が行われて、窒息死だと確認された。誰も首なんて絞めていないし、病気によって呼吸困難に陥ったわけでもない。自分の意志で呼吸を止めた? まさか? でもまあ、ゼテクがいるのだし、彼なら正解を知っているとは思うけど。生け捕りにされたら、窒息死で自決する方法を、暗殺組織は編み出したのかもしれないわね」
スピネルが言っていることは、なんとなくは分かる。
でも未知の用語がいっぱいで、目をパチクリさせてしまう。
眼瞼結膜? 溢血点?
「スピネルさん、拓海、医学の知識がないっぽいですよー」
「え、リマは今、スピネルが言った内容、理解できているのか?」
「あったり前でしょー。うちらは暗殺で飯食ってきたんだから。医学の知識もないと、暗殺の偽装もできない」
驚いた。
暗殺者は殺しが専門。
殺しに精通していても、生かすための医学の知識に詳しいとは思わなかった。
あ、でも、スピネルはリマが三騎士に選ばれた時、言っていたよな……。
スピネルの言葉を思い出す。
――「暗殺者は人間で構成されているから、医師顔負けの治療スキルを持っているの。まあ、それだけ生傷がたえない過酷な生き方をしているってことなのだけど」
他にも星を読んだり、動植物なんかにも詳しいって言ったよな。
「リマはすごいな。何でも知っている」
「!!」
リマの顔が真っ赤になった。
「ふ、ふんっ。別に。拓海に褒められてもどうってことないし。……それで、あんたが分からないのは何よ」
「えっと、まず眼瞼結膜」
リマが突然、俺に「あっかんべー」をした。
「!?」
「ほら、ここよ、ここ」
「まぶたの裏よ、拓海くん」
スピネルのフォローでようやく理解する。
「あとは……」
「溢血点?」
リマが先回りした。
「そう、それ」
「溢血点は、毛細血管が破れて起きる小出血のこと。針の先ほどの大きさだから、すごく小さい点状の出血が確認されたってこと」
「なるほど」
俺が頷くと、リマは続けてスピネルに話しかけた。
「スピネルさん、『ザイド』では敵の手に落ちた時に『窒息死しろ!』なんて教えてないですよ」
「あら、そうなの?」
「歯に毒物を丸薬にして仕込むか、毒針を使います」
リマは普通の表情でスピネルと会話しているが、言っている内容はとんでもなく恐ろしいことだ。
「なるほど。そうなると、ベリル様達は頭を抱えることになるわね。どうやって窒息死したのか、って。会議は長丁場になりそう」
スピネルが言う通りになった。
俺達が部屋に戻っても、ベリルはまだ部屋に戻ってこない。
お茶の時間になった。
カレンがお茶を出してくれたので、スピネルとリマと三人で紅茶を飲み、ケーキを食べたが、ベリルは戻って来ない。
そこで俺は、夕ご飯まで自主トレをすることにした。
リマは難癖をつけながらも、俺の自主トレについてきていた。俺は弓があまりうまくないので、練習することにしたのだが……。リマは弓が得意だったようで、俺の射型の悪いところを指摘し、肩甲骨の正しい使い方を教えてくれた。口は悪いがリマの指導は的確で、腹落ちできるアドバイスも多かった。
練習を終え、部屋に戻ったがまだベリルの姿はなく……。
ようやくベリルが戻ったのは、夕食の席だった。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
「『あの方』の正体は?」
「怪しいのは……」
です。
敵は意外にも身近にいた……?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






