46:清楚で清廉な美少女
「こんな場所、初めてきた!」
感嘆の声をあげる俺に、スピネルはクスリと笑って指摘する。
「それはそうよ。ここに来るってことは、大怪我をしているわけだから。知らずに済むのが一番に決まっているわよ、拓海くん」
リマを護衛に、スピネルに連れられ、レッド家の敷地内にある病院に向かって歩いていた。
◇
ベリルの部屋に来ていた四人は、それぞれベリルと俺に用事があった。
カレンは食事の片付け、アレンはロードクロサイトの伝言(「会議を始めるから部屋に来い」)、スピネルはムラトと自死を図った襲撃者の検死結果の報告、ヴァイオレットはベリルの護衛、リマは俺の護衛のために部屋に来ていたのだ。
ベリルはスピネルから検死報告書を受け取ると、さっきの俺の希望を伝えた。
俺の希望――魔力を失った騎士に、俺の血を提供したいと思っている件だ。
スピネルに俺の希望を伝えた上で、現状、病院に収容されている騎士の様子がどうなっているのか、それを視察するよう、ベリルは指示を出した。つまり、俺の血を必要としている騎士がどれぐらいいるのか、それを確認しろというわけだ。
その指示を出すと、ベリルは俺の頬にキスをして「では行ってくる、拓海」と、部屋を出た。
その瞬間。
「あんたさ、ベリル様にキスしてもらっておいて、何ボーっとしているのよ!! 気をつけていってらっしゃいとか、気の利いた一言も言えないわけ!?」
隊服姿のリマは、仁王立ちで俺を睨む。
「まあまあ、リマちゃん、落ち着いて。とりあえず病院にいる騎士の様子を見るように、ってことだから、行ってみましょうか」
カーマイン色のドレスに、いつも通りの白衣を着たスピネルの提案を、もちろん俺は快諾し、病院へ向かうことにした。
◇
病院は、カーネリアンの邸宅からさらに5分ほど歩いた場所にあった。
透明度の高い碧い池があり、周囲を森に囲まれ、隠れるようにひっそりと病院は存在している。
レンガ造りの建物で、レッド家の紋章である炎と不死鳥が刺繍された旗が、屋上で揺れている。
建物の中に入ると、スピネルは迷うことなく一階の大部屋に向かった。
十人が収容されているその部屋には、包帯を巻かれた騎士たちがそれぞれのベッドで休んでいる。医師と看護師と思われるヴァンパイアが、順番に騎士の様子を見て回っていたが……。
「あ、お姉さま」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り向くと……。
パッと見たその姿に思い浮かべた言葉。
それは「聖女様」だった。
ストロベリーブロンドの長い髪に、桜色の瞳と唇。
ピンクベージュのベール、同色のエプロン、長袖のムーングレイのワンピース。
修道女にも見えるその少女は、俺がガン見していることに気づくと、恥ずかしそうに視線を落とす。
「フローライト! 丁度いいわ。昨日の襲撃で運ばれてきた騎士の様子を見に来たの。案内してもらっていい?」
「あ、はい。分かりました」
フローライトっていうのか。
なんか、名前と外見のイメージが一致しているな。
清楚で清廉な感じを連想させて。
「じゃあ歩きながら紹介するわね。こちらは……」
「拓海様ですよね。ベリルお嬢様の婚約者の。流石に分かります」
フローライトは俺をチラッと見て、手に持っていたバインダーを、胸の前でぎゅっと抱きしめる。
「まあ、そうよね。じゃあ、彼女は……」
「ベリルお嬢様の三騎士、第三騎士のリマさんですよね。現役『ザイド』の方で、大変腕の立つ方。レイラさんの妹さんですよね」
フローライトに褒められたリマは、少しドヤ顔で笑みを浮かべている。
「……フローライト、あなた勉強熱心ね」
「そ、それは当然です。まさかもう一度レッド家に仕えることができるなんて、思っていませんでしたから。4年間のブランクを取り戻すのに必死です……」
4年間のブランク? それってもしや……。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『柔らかふわふわバスト』
『俺の血で助けられるなら』
です。
なんだか気になるタイトルが……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






