22:俺はベリルに抱きついた
目潰しにあったケルベロスは、炎を吐き出しながら、コントロールを失った。
滅茶苦茶な方向に炎を吐き出し、一方のクラーケンは再び海中に没した。
そして炎のほとぼりがさめたその時。
それは身の毛もよだつ光景だった。
クラーケンは想像していた以上に巨大だった。
どれぐらい巨大かというと、ケルベロスを丸呑みできるぐらい、巨大だった。
ほんの一瞬でケルベロスの姿が消えた。
ケルベロスを丸呑みしたクラーケンは、そのまま海中に身を沈めた。
観客は一瞬静まり返り、そして熱狂的に叫び、拍手喝采を送った。
俺も興奮を抑えきれず、雄叫びをあげ、拍手を送った。
「広場を海で満たし、クラーケンを召喚できたのも、拓海くんがいたからできたのよ。最強クラスの魔獣の召喚、海でその場を満たす、そんなの一度やればその日はもう何もできなくなるわ。でもベリル様には拓海くんがいた。だからクタクタになっても拓海くんの血で回復して、そして何度も訓練ができた。戦闘のシミュレーションもできた。その結果が、この勝利よ」
スピネルの言葉に俺は心から嬉しくなっていた。
この勝利に俺も貢献できたんだ!
誰かの役に立てた。他でもないベリルの役に立てた。
「スピネル、ベリルのところへ行きませんか?」
「そうね。海も引いたし、クラーケンも帰還した。ベリルのところへ行きましょう」
スピネルが立ち上がり、俺たちはベリルのいる広場へ向かった。
◇
観客の興奮は冷めず、広場に向かって移動する間も、盛り上がる観衆の間をぬうようにして進むことになった。
ようやく広場に着くと、ヴァイオレット、キャノス、バーミリオンに迎えられた。三人とも、甲冑にマントという姿で、勝利に歓喜し、満面の笑みだった。俺とスピネルは三人と喜びを分かち合い、観衆に笑顔で手を振るベリルの姿を見上げた。
決闘に備え訓練をしていたベリルは、フラフラで俺の所に来て、吸血を行っていた。でも今日は決闘が始まる直前に俺から吸血をしていた。だから今は倒れることもなく、観客の熱狂に応えることができていた。ベリルは決闘が終わった後、倒れないようにと、さっき吸血を行ったんだ。
先を見据えて行動できているベリルは、やはりレッド家次期当主に相応しいと思えた。
誇らしい気持ちで俺が満たされていた時だった。
ベリルの顔に影ができた。
今日は雲一つない晴天なのに。
そう思った俺は上空を見上げた。
何かがベリルに向かって視認できないような速度で迫っていると感じた。
それはボクシングで鍛えた勘が教えてくれたのかもしれなかった。
気づけばベリルがいるステージに向け、階段を三段飛ばしで駆け上っていた。
空から来る何かを避けるため、俺はベリルを突き飛ばそうとしていた。
でも。
間に合わない!
俺はベリルに抱きついた。
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