35:心臓を穿っても動きを止めぬ
ロードクロサイトの執務室の隣は、会議室になっている。
その会議室にロードクロサイト、カーネリアン、ベリル、ゼテク、レイラ、リマの六人が集まり、先ほどムラトが語った件を検証し、今回の襲撃について話し合うことになった。レイラとリマは三騎士になるとはいえ、『ザイド』で中核を担っていたメンバーだ。そして今回の襲撃は『ザイド』によるもの。だから二人が会議に参加するのは当然だった。
「拓海も会議に呼びたかった。でも、もう時間も遅い。とりあえず私の部屋で入浴して体を休めて欲しい」
そう気を使ってくれたベリルは、地下牢から戻る道中で、カーネリアンの邸宅での襲撃について教えてくれた。
カーネリアンの邸宅に現れた襲撃者は、約50名。ベリルが見た限り、男性の襲撃者は頭にはターバン、口元を布で覆っていた。女性の襲撃者もいて、そちらはニカブを纏っている。そのことからすぐに『ザイド』であると思ったが、ゼテクがレッド家を裏切ることはないと分かっていた。だから『ザイド』を装った襲撃かと思ったのだが……。
現場に駆け付けたゼテクは、襲撃者の攻撃の動き、技を見て、自身の部下達であると確信した。つまり、偽装したわけではないと。
レッド家の厳重な警備、それは突破されたわけではなく、実在する『ザイド』のメンバーだったから、戦闘なくして侵入が可能になっていた。だから侵入者が牙を剥いたのは、カーネリアンの邸宅の中に入ってからだ。
戦闘の最中に短く交わした会話の中で、ゼテクはベリルにこう告げた。
「襲撃者は元『ザイド』のメンバーじゃ。つまり、『ザイド』から追放されたメンバー、そして狂殺者がかなりの数、混ざっておる。狂殺者は薬でリミッターが外れ切っておる。人間とは思えぬ桁違いの力を発揮する。しかも魔術の効かない体質の狂殺者もおる。決して油断せぬように。まともな攻撃では通らぬ。心臓を穿っても、動きが止まらぬ者も過去にはおった。動きを封じるような、手足の腱を狙うのじゃ」
ベリルはすぐに声を張り上げ、「敵は元『ザイド』の暗殺者。魔術の効かない体質の狂殺者もいる。まともな攻撃は通らぬ。動きを封じよ。手足の腱を狙え」と指示を出した。
戦闘時にヴァンパイアの聴力の良さはとても役立つ。
だが。
ムラトのような魔術の効かない体質の狂殺者は、手強かった。多くの精鋭と言われる騎士が次々と戦闘不能に追い込まれる。
それでもその場には、サラマンダーとガーゴイルもいる。
追放された元『ザイド』の暗殺者たちは、魔獣による攻撃を受け、骨さえ残らず、煤だけが残った。
襲撃者の何人かはその場から逃走し、また何人かは生け捕りにされた。しかし、生け捕りにした者は、突然苦しみ出し死亡してしまう。
ベリルはゼテクから、口の中に毒を仕込んでおくのは暗殺者の常套と聞いていた。だからおそらく自ら死を選んだのではと推察していた。
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