25:殺すわよ
「ちょっと、拓海! あんた、いくら留守番だからって……。寝ているとか、あり得ない!!」
部屋にやってきたらしいリマが怒鳴っている。
だがまだ体を巡る魔力の余韻で、声を出すことも、体を動かすこともできずにいた。
「信じられない。起きなさいよ!」
リマの声が近づいてくる。
そして。
ミントグリーンの生地に、白糸で刺繍が施されたガラベーヤを着たリマの姿が見えた。
手には曲刀を持ち、弓矢も装備している。
「……!」
俺を見た瞬間、リマが顔を赤くした。
視線を逸らしたリマは……。
「あんた、何て顔をしているのよ! そんな顔、ベリル様だけに見せるものでしょ!!」
……?
俺、今、どんな顔しているのだろう……。
ただただ快楽の余韻で全身が痺れ、頬は赤くなっている気はするが……。
リマが視界から消えた。
俺は目を閉じる。
侵入者はどうなっているのだろう?
カーネリアンの邸宅は、俺達がいる建物から少し離れた場所にある。
厳重なレッド家の警備を突破した敵。
いったい何者なのか。
それにしても……。
いくら危険にさらしたくないからって……。
ベリルは、俺の身に何かあったらと心配してくれた。無理をしてついてこないようにと考えた。だから自身の強化した魔力を、俺に注入したのだと、それは分かっている。
騎士の訓練をしているとはいえ、まだ数カ月しか経っていない。ついて行ったとしても、足手まといになるのは当然だ。
それでも、ベリルには俺の血と魔力が必要だろうと思っていたのに。
こんな形で置いてきぼりにされるとは……。
……俺がヴァンパイアだったら、ベリルは連れて行ってくれたのだろうか?
早く、ヴァンパイアになりたい。
守られるだけではなく、俺もベリルのことを守りたい。大切な人を守りたい。
「バカ拓海、なんであんた、泣いているのよ!!」
唐突に視界に現れたリマが、苛立った顔で俺を見る。
!?
泣いたつもりはない。
でも感情が溢れ、快楽の余韻も相まって、どうやら涙が出ていたようだ。
手を伸ばして頬に触れる。
!? 手が動く!!
ゆっくり起き上がった。
「ちょ、急に起き上がるんじゃないわよ!!」
まだ近くにいたリマは驚き、ベッドから離れる。
「ごめん、ごめん。それで様子はどうだ?」
リマは窓の方に向かい、分厚いカーテンをめくり、外の様子を伺う。
その眼光は鋭く、いつものリマとは全然様子が違う。
「カーネリアン様の邸宅はここから離れている。何度か炎の柱のようなものが見えたから、戦闘が続いているのかもしれない。でも、ここにいる限りは安全かと思うわよ」
眼光も鋭くなったが、話し方も変わっている。
リマの隣に並び、窓の外を見ようとしたのだが。
「うわぁ」
いきなり首に腕を回され、曲刀を突き付けられていた。
「ちょ、何よ!! 急に接近しないでよ。殺すわよ」
確かにこれは明らかに殺そうとしている体勢だ。
「!? 俺はただ、窓の外を見ようとしただけで……」
リマが腕をほどき、曲刀をしまう。
「私は背後をとられたり、30センチ以内に急に近づかれると、本能的に戦闘モードのスイッチが入っちゃうの!! 気をつけなさいよね、バカ拓海!!」
リマが『ザイド』で暗殺者として活躍していたことを、実感する。
「そ、それは知らなかった。すまなかった」
だが。
「ふんっ」
そっぽを向くリマの耳が赤いのは何故だ……?
気にはなったが、侵入者の方がもっと気になる。
カーテンを掴み、窓の外を見る。
「!!」
窓の外を、つまりは庭で何か巨大なものが動いた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『に、庭に、何かいる!!』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






