17:ベリルをベッドに放り投げ……
「そのすべてを奪ってやろう」
そう言われた時、ベリルは困惑した。
自分はいったいどんな表情をしていたというのか?
この名状しがたい感覚に困惑しているのに、その表情を見て、なぜすべてを奪うにつながるのか?
ただ、その表情のおかげで、ベリルはブノワの吸血から一旦逃れることができた。
ベリルのことをベッドに放り出すと、ブノワは服を脱ぎ始める。
逃げるなら、今しかない。
全身を巡る未知の感覚に、意識が飛ばされるそうになるのを必死に抑え込み、ベリルは一点集中で魔術を使う。
服を脱ぐのに夢中になっているブノワの足元に魔力を集中させ、「Heat solubilization(床を焼き消せ)」と唱えた。
その瞬間、ブノワの足元の床が瞬時に焼け落ち、その体は一階へと落下していく。
ブノワはシャツもズボンも脱いだ状態。
すぐには動けないはず。
ベリルは未知の感覚に震えながらもベッドから降り、衝立の方へ向かった。
◇
「ベリル……」
堪らず、俺はベリルを抱きしめていた。
「どうした、拓海?」
ブノワの下衆野郎が許せない気持ちでいっぱいだった。
まさかあの時、ベリルは血や魔力だけでなく、体までブノワに奪われそうになっていたなんて。
でも。
ブノワが欲望に忠実であったおかげで隙ができ、ベリルはブノワの魔の手から逃れることができた。
皮肉な話だ。
それにしても、ベリルはいったいどんな表情をしていたのだ?
血と魔力だけ奪うつもりだったブノワの気持ちを変えたベリルの表情って……。
そこでようやく気が付く。
快感を得た時の俺の表情を、ベリルが見たがる理由に。
「拓海?」
抱きしめたままだんまりの俺に、ベリルが痺れを切らしていた。
「ご、ごめん。いや、その、ブノワがベリルにしたことが許せなくて。血や魔力だけでなく、体まで奪おうとするなんて……。ベリルが無事で良かったよ」
「当たり前だ。あんな奴に私のすべてをくれてやるつもりはなかった」
「ベリル……」
額に唇を押し当てる。
「……拓海で私が学習する理由も分かっただろう?」
「ああ。よく分かったよ。……それでブノワの魔の手を逃れた後、ヴァイオレット、キャノス、バーミリオンはどうなった?」
ベリルを抱きしめたまま尋ねる。
「ヴァイオレットは、サンドロとのもみ合い状態が続いていた。ヴァイオレットはああ見えて私以上に腕力が強い。サンドロは、簡単に組み伏せることができると思っていただろう。だがヴァイオレットの粘りに、サンドロの方が息切れになっていた。私が駆け付けた時、丁度私に尻を向けていたからな、サンドロは。その尻に火をつけ、ヴァイオレットと共に部屋を逃げ出した」
慣用句で「尻に火が付く」っていうけど……。
実際に尻に火をつけられたなんて、サンドロぐらいでは!?
「廊下を走っていると、キャノスの碧い鳥が現れた。キャノス達はブノワの三騎士の二人を倒し、押し寄せる騎士達と応戦しているとのことだった。自分達はなんとかなるので、逃げられるようであれば、私達に逃げるようにとのことだったので、そうさせてもらうことにした」
「なるほど」
「あとでバーミリオンから聞いたが、第二騎士のカサンドラは、落下してきたブノワが直撃し、気を失ったらしい。その場にいたキャノスも、第三騎士のマリーナも、それ以外の騎士達も、ブノワの姿に戦闘を忘れ、固まったとか。下着一枚ではさすがのイケメンも、様にはならなかった」
その姿を想像し、俺は笑い出し、ベリルも笑った。
「つい長話をしてしまった。もう寝ないといけないな」
ひとしきり笑うと、ベリルはゆっくり体を起こす。
俺も上体を起こし、掛け時計を見た。
もうすぐ22時か。確かに寝ないといけないな。
ベリルは俺の部屋に来てくれるが、寝る時は自身の部屋に戻ってしまう。
この、ベリルが部屋に戻ってしまう瞬間は、とても寂しい気持ちになる。
「拓海、寂しいのか?」
「……うん」
「拓海は素直だな」
ベリルはそう言うとぎゅっと俺を抱きしめた。
その瞬間、俺の体はベリルのバストを感じ、一気に心拍数が跳ね上がる。
「寝ている間の数時間だけだ、離れているのは。また明日の朝には会えるから」
「分かった、ベリル」
ベリルが俺の額に優しくキスをした。
そして。
「ぐっすり眠れるようにしてやろう」
耳元で甘く囁くと、ベリルは俺の首筋に牙を立てる。
その瞬間に一気に魔力が注入された。
俺は意識のコントロールを一切せず、ベリルの魔力と快感を受け入れ、眠りに落ちた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『新たな第三騎士』
『拓海はどう思う?』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






