20:決闘開始
決闘が行われる広場の左側にベリルが、右側にブノワが立っていた。共に決闘者が登壇する、手すりがついた正方形のステージに佇んでいた。
俺は初めてブノワを見たのだが、青い髪に碧い瞳の美しい青年だった。決闘の場なのに、自身の潔白を証明したいからか、足元のショートブーツ以外はすべて白で統一した衣装を身に着けている。俺からするとこれから結婚式と思える姿だった。
ただ、凛とした佇まいのベリルに対し、ブノワの顔色はとても悪かった。そのため、せっかく白で統一したのに、パッと見の印象はなんだかマイナスだった。
二人の後ろにはそれぞれの三騎士が控えている。ブノワの三人の騎士のうち二人は女性騎士だった。その女性騎士というのが……。実に肉感的な騎士だった。甲冑もわざわざその部分を強調したようなデザインで、そう言ったところがなんとなく不快だった。観客に色目を使っているところも、俺はなんだか嫌だった。
そしてこれは童貞の勘なのでハズレているかもしれないが、ブノワはこの二人の女性騎士と肉体関係を持っていると感じた。
◇
決闘には司会者がいた。
白いシャツ以外は上着もズボンも金色と、派手な姿だった。その司会者が、今回の決闘がなぜ行われることになったのか、その経緯、レッド家とブルーノ家、それぞれの言い分などを紹介した。
そして広場に立つベリル、ブノワを紹介した。
司会者に名前を呼ばれたベリルは優雅に手を振った。
その仕草、笑顔、姿に観客は魅了されていた。
対してブノワがすました顔で手を振ると、観客は微妙な反応を示した。
それぞれの紹介が終わると、いよいよ決闘が始まった。
◇
司会者が開始の合図を行うと、二人は魔力を使い、召喚に必要となる円陣を足元に出現させた。そしてほぼ同時に召喚を行った。
ブノワが召喚した魔獣は三つの頭を持つ巨大な犬だった。
「ベリル様が予想した通りね。彼女がレッド家の長女として召喚できる最強の魔獣が地獄の番犬と言われるケルベロスだった。これを呼び出せるぐらい、ブノワがベリル様から魔力を奪った。それが奇しくもこれで証明されたことになるわ」
スピネルはそう言うと大きくため息をついた。
一方、ベリルは……。
魔獣の召喚を行ったのかと思ったが違った。
ベリルはなんと決闘が行われている広場全体を水で満たしていた。
水……じゃない、潮の香りがする。
観客先は目の前に突然出現した海に度肝を抜かれていた。
だがそこに何かが現れた。
「クラーケンだ!」
観客の誰かがそう叫ぶと、皆が一斉に立ち上がった。
「ブラッド国は海に面している土地が極端に少ないの。だから実物の海を見たことがある人がそもそも少ないのよ。だから広場に展開された海を見ただけで観客は興奮している。そこに海に潜む魔獣、クラーケンが召喚されたのだから、ボルテージは上がるわよね」
スピネルが言う通り、観客の盛り上がりは半端なかった。
観客の様子を見たブノワは引きつった顔で、ケルベロスに攻撃を命じた。ケルベロスは海に向かって駆け出したが……。
巨大なケルベロスだったが、体の半分が海中に没していた。
一方のクラーケンは頭の一部が海面から見えているだけで、その姿はほとんど見えていない。ケルベロスが動くとクラーケンは完全に海に没した。
ケルベロスの三つの頭はそれぞれの口から炎を吐き出した。
観客席にもその熱気が伝わり、前方の席の観客の中には、前髪が燃えている者もいた。炎が吐き出されている最中は、その高温も意味があった。だが海に燃えるような物はなく、炎を吐き出しきり、風が吹けば、それでお終いだった。
一方、炎による威嚇、それを受けたクラーケンは……。
突然、ケルベロスの三つの頭がぐらりと揺れた。
次の瞬間、その三つの頭がすべて海に没した。
一つの頭が海中から突然飛び出し、必死に口を開けた。
だが首元にクラーケンの触手が伸び、すぐ海中に没した。
地上であれば、ケルベロスは相当強かっただろう。
だが海が戦いの舞台では……。
「ブノワはなぜ海を魔術で消そうとしないんですか?」
俺は思わずスピネルに尋ねた。






