2:童貞のまま死にたくない‼
「ベリル様、召喚成功ですね。今すぐ、血を吸ってください。かなりの量を、ブノワの奴に吸われましたよね⁉ 早く血を補給して、この屋敷から逃げましょう」
声の方を見ると、葡萄色の髪を左側で三つ編みにし、西洋の騎士が身に着けるような甲冑にマントをつけた、これまた美貌の少女がいた。まさに女騎士という風貌だ。
この少女もまた、ベリルと呼ばれた俺を抱きかかえる少女同様、肌の色は白く、綺麗な紫水晶の瞳をしていた。
「そうだな、ヴァイオレット。……ではいただくとしよう」
ベリルと呼ばれた美少女は俺を地面に降ろし、大木の前に立たせた。
周囲に目を走らせると、離れた場所に洋館が見えた。
俺がいる場所は手入れされた木々があり、庭園の森の中、という感じだった。
……!
白く細い指が俺の首に触れ、ようやく自分が置かれている状況を理解した。
さっき、ヴァイオレットという女騎士は「今すぐ、血を吸ってください」と言っていた。つまり、俺はこれから血を吸われる。ということはベリルはヴァンパイアということになる。
「あの……」
俺は恐る恐るという感じで声を発した。
「……」
ベリルは驚いた顔で俺を見た。
「俺の血を吸うんですよね? まさか全部吸うんですか?」
「貴様、供物のくせにベリル様に話しかけるな」
ヴァイオレットが剣を抜き、俺に向けた。
本物の剣を突き付けられ、全身に恐怖が駆け抜けた。
なんだよ、折り畳み式ナイフで襲われそうになって、次は剣を突き付けられるなんて……。
「ヴァイオレット、剣を下ろせ。供物が声を発すると言うのは珍しい」
ベリルはそう言うと俺を見た。
「私はレッド家の長女のベリルだ。先ほど婚約者のブノワに襲われ、大量の血を失った。ブノワの屋敷から逃げるため、失った血を補給する必要がある。だから供物を……私にとって食料となる人間を召喚した。そしてお前が現れた。だからお前の血を吸う」
理路整然とした説明だった。
「つまり失われた分の血を吸うだけで、俺は死なないんですよね?」
「いや、全部吸う。だからお前は死ぬ」
「⁉ なぜですか⁉ さっき、失った血を補給する必要があるって言いましたよね⁉ 俺の全身の血と同量の血を失ったって言うんですか⁇ それなら今、生きていませんよね⁉」
ベリルはため息をつき、ヴァイオレットは舌打ちをした。
「人間と我々ヴァンパイアとでは血のクオリティが違う。私が失った血を人間の血で補おうとすると、失った血の倍以上の血が必要となるのだ」
「……そんな」
じゃあ、俺は今ここで、この美少女ヴァンパイアに血を全て吸われ死ぬというのか⁉
「……俺、彼女いない歴が年齢だし、まだ童貞なんですよ! それなのに死ねって言うんですか!」
俺の言葉にベリルは言葉を失い、ヴァイオレットは顔を真っ赤にした。