19:顔を見るだけで何を考えているか分かっちゃう
しばらくして俺が落ち着くと
「拓海さま、こちらへどうぞ」
アレンとカレンが俺を立ち上がらせた。
シャツのボタンはとめられ、何事もなかった状態に戻っていた。
「席へ案内します」
アレンが先頭となり、俺の後ろにカレンが続き、歩き出した。
二人にいろいろ聞きたかったが会場は観客でいっぱいで、歩きながら話すのは無理だった。人混みをかきわけ、ようやくたどり着いた席は、スピネルの隣の席だった。
俺はチリアンパープル色のローブ・デコルテドレスを着たスピネルの隣に腰を下ろすと、早速話しかけた。
「スピネル、どうして――」
「どうしてベリル様があんなに着飾っているのか、なんでこんなに広い会場で観客も沢山いるのか、それが気になるのでしょう、拓海くん」
スピネルは紅いフレームの眼鏡をくいっとあげて、微笑んだ。
「……どうして俺が聞こうとしていることが分かったんですか?」
「だって、この数日ずっと私は拓海くんに付きっきりだったのよ。ベリル様より長い時間を拓海くんと過ごしたんだもん。もう顔を見るだけで何を考えているか分かっちゃう」
上目遣いで俺を見るスピネルは、なんとも艶めかしい。
「それで、なぜなんですか?」
俺は視線を決闘が行われる広場に向けた。
「決闘では召喚した魔獣や霊獣が戦闘を行うから、ベリル様がどんな衣装を着てようと問題はない、ということは分かるわよね?」
「それは分かります」
「……ベリル様に美しく着飾るように指示したのは、ロードクロサイト様なの。意図は沢山あるわ。まず、婚約者であるブノワへの当てつけね。お前はこんなにも美しい娘を嫁に迎えることができるはずだったのに手放すことになるんだぞ、っていう。
次にロードクロサイト様は当然この決闘に勝つつもりでいる。この決闘にベリル様が勝利すればブノワとは婚約解消となる。そうなった時、新たな婚約者探しが始まる。
ベリル様と結婚したいヴァンパイアなんて山といるだろうから、そこまでする必要はないと思うのだけど、新たな婚約者候補へのお披露目よね。今日の決闘には5つの有力ヴァンパイアのすべてが足を運んでいるから。我が娘の美しさを見たか、結婚を望む者は名乗りをあげよ、って感じね。
あとはこの会場に来ている一般ヴァンパイアにレッド家の威光を示す。ベリル様が身に着けているものはどれも一級品よ。美しく、力も強く、富もあるレッド家の次期当主を知らしめる、という訳ね」
「なるほど……。だからこれだけ沢山の観客がいて、こんな整った会場で決闘が行われるのですね。なんとなく俺のイメージでは、決闘は私的なイメージだったんです。こっそり関係者だけで行うと思っていました。でも今、スピネルの話を聞いてよく理解できました」
俺がスピネルを見ると、ニッコリ微笑んだ。
「それは良かったわ。そろそろ決闘の開始時間ね。ベリル様のこと、応援しましょう」
スピネルの言葉に力強く頷いた。
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