6:拓海のその表情、初々しいな
「いや、ベリルがあの時、ブノワの魔の手に堕ちないでよかったな、って思って」
椅子に座るベリルを後ろから抱きしめる。
全身からベリーのような甘い香りがして、心臓が一気に高鳴った。
「……拓海と出会ったあの日のことか。まあ、あの時はやられに行ったつもりはないが、私の知識不足で危機を招いてしまった。だからこそ、私は拓海で学習を続けている。もうあんなことにはならない」
「!? ベリル、どういうことだ?」
パソコンを終了させると、ベリルが立ち上がった。
「気になるのか、拓海?」
「それはもちろん。ベリルがブノワに大量に血と魔力を吸われた、その事実しか俺は知らない。でも冷静に考えると、ベリルがそう易々ブノワにやられるわけがないよな?」
ベリルはフッと笑うと、突然俺のことを抱き上げる。
「!! ベリル!?」
「拓海と初めて会った時を思い出すな。私の腕の中に現れた拓海は、今みたいに驚いた顔をしていた」
!! 確かにそうだ。
井戸に落ちたと思ったら、突然ベリルに抱きかかえられて……。
「いや、確かに懐かしいけど、その、俺、ベリルにお姫様抱っこされるのは……」
ベリルは「拓海のその表情、なんだか初々しいな」と言いながら俺をベッドに運ぶと、静かにおろした。
「あの日、ブルーノ家で何が起きたか。昔語りをしようか」
ベリルは俺の靴を脱がし、寝間着のボタンをはずしながら、静かに語り始めた。
◇
父親であるロードクロサイトから、婚約者はブルーノ家のブノワに決まったと言われた時。
ベリルは「分かりました」とだけ答えていた。
レッド家次期当主になる覚悟を決めてから、結婚相手を選ぶ自由はないと理解していた。
それに婚約者は、5つの有力ヴァンパイアのいずれかになるだろうと思っていた。よってブルーノ家であることも、そしてブノワであると知らされても「ああ、そうなのか」としか思わなかった。
何よりブルーノ家は、レッド家に次ぐ財力と力を持つ一族。そのブルーノ家の次男であるブノワであれば、婚約者として文句のつけようがない。
それにブノワはその家柄、そして美しい容姿から、夜会に姿を見せれば、多くの女性に取り囲まれていた。ゆえにブノワとベリルの婚約が決まったと知れば、羨む声の方が圧倒的に多い。
そんなブノワとの婚約を拒めば、世間はベリルに対し「高飛車な女だ」「お高く止まって」という陰口にもつながりかねない。
そうとは分かっていたのだが。
ベリルはブノワの気にかかる素行を、三度ほど目にしていた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『ブノワの素行~苦痛のキス~』
『ブノワの素行~人目を忍び(1)~』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






