79:実は最強の魔法使い
一方、カーネリアンをさらうのに協力した魔女には、キャノスがとある魔法をかけることになった。
この時の経緯は、実に印象的だ。
魔女への対応を話した時、ゼテクはカーネリアンから聞いた情報から、その魔女の正体をこう明かした。
「カーネリアン様を手伝ったのは、森に住む、通称『ターラーの魔女』で間違いないであろう。向こうは偽名を使っていたようじゃが、おぬしには珍しく素顔をさらした。金に執着するオレンジ色の髪に金色の瞳の魔女と言ったら、ターラーの魔女しかおらん。……まあ、カーネリアン様、おぬしは大層な男前じゃからのう。ターラーの魔女も、おぬしに自慢の美貌を見せたくなったのかもしれん」
ゼテクはそう言った後に、こうも付け加えている。
「しかし、関わりを持ったのがターラーの魔女で命拾いをしたのう。ターラーとは知っての通り、テルギア魔法国の通貨のことじゃ。ターラーの魔女、それすなわち、金さえ積めば、なんでもする魔女ということ。もし金より色事を好む魔女じゃったら……カーネリアン様、おぬしは今ごろ、魔女に囚われていたことじゃろうよ」
さすがのカーネリアンも、ゼテクの言葉に青ざめ、隣に座るバーミリオンの手をぎゅっと握っていた。
「師匠、そのターラーの魔女って、何なの? 魔法使いと何が違うの?」
リマが首を傾げて尋ねる。
「ああ、リマは魔女の案件は初めてじゃったな。魔法使いもヴァンパイアも魔力を使い、魔法を、魔術を使う。じゃがのう、魔力と言っても魔法使いが使う魔力の源は聖なる力。対してヴァンパイアが使うのは闇の力。性質が違うのじゃよ。魔女はのう、最初は聖なる力を使う魔法使いであったが、その力を放棄した者なのじゃ。代わりにヴァンパイアと同じように闇の力を使うのじゃが、使えるのは魔術ではなく魔法。それが魔女なのじゃよ」
この話は俺も興味があることだったので、ゼテクに尋ねていた。
「なぜ聖なる力を放棄して、闇の力を手に入れる必要が?」
「厳密には放棄したというより、罪をおかし、聖なる力を使えないようになった、という方が正しいのじゃ。罪というのは、禁忌とされる魔法を使うこと。魔法はいろいろあるが、なんでもかんでも使っていい、というわけではないのじゃ。それで魔女はのう、闇の力で魔法を使うのじゃが……。闇の力から生み出される魔法は、時に聖なる力による魔法よりも、強いことがある。だからあえて罪をおかし、闇の力を手に入れ、魔女になる者もおる」
「それならより強い魔法を使いたい魔法使いは、みんな魔女を目指してしまうのでは……」
俺の指摘にゼテクは首を振る。
「まず魔女という名の通り、禁忌とされる魔法を使い、魔法使いから魔女になるのは女性のみじゃ。男性の魔法使いは、禁忌とされる魔法を使うと、魔力を失い、ただの人間になってしまう。それに魔女になると、子を産めぬ体になり、使えぬ魔法も増える。だから誰もが魔女になりたい、というわけじゃないのじゃ」
「なるほど……」
俺が頷くと、今度はレイラが口を開いた。
「キャノス様はヴァンパイアと魔法使いのハーフですが、この場合はどうなのです?」
レイラは仮面舞踏会から戻ってから、騎士達を「様」づけで呼んでいる。
「私の体に流れる魔力は、闇の力に基づくもの。ですので、その点は魔女と変わらないと思います」
キャノスがゼテクより先に答えた。するとゼテクはこんなことを明かす。
「キャノスが使うのは、闇の力に基づく魔力じゃ。だがのう、使える魔法の制限は、魔法使いと変わらぬ。つまり、ヴァンパイアと魔法使いのハーフ、しかも男性というのは、何気に最強なのじゃよ。しかも、ヴァンパイアと魔法使いのハーフで男性というのが、そもそも誕生しにくいと言われておる。だから本来メルクリオは、キャノスを侮辱するなどできぬはずなのじゃ。魔法で二人が競えば、勝つのはキャノスじゃからのう」
それは皆、知らない情報だったようだ。驚きの顔で、全員がキャノスを見た。
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