75:なぜさらう必要があったのか
ところが俺が「恋愛相談の件は?」と聞いてしまった。
カーネリアンはそこで、思いつきで自分が口にした言葉を思い出していた。そして思案することになる。あのメンバーの中で気になっている男性がいると言うなら、誰にすべきか、と。
脳をフル稼働させた。
ゼテクは、メルクリオと昔は盟友だったが、今は微妙な関係だ。バーミリオンとはしばらくこの国にいるつもりだし、すぐに男としての身分を手に入れられるか分からない。ゼテクを想い人と告げ、メルクリオの耳に入ると、面倒になると考え、ゼテクの名を出すことは止めた。
その後は消去法だ。
ゼテクの執事も……メルクリオに知られると面倒そうなので却下。
クレメンスは婚約者を同伴しているのだから、やめておこう。
俺は目の前にいるが、今さら俺を好きだというのは不自然過ぎた。
残るはクレメンスの三騎士とキャノス……。
クレメンスの三騎士達は婚約者がいるのだろうか?
少なくとも4年前の記憶では、主であるクレメンスに婚約者がいなかったから、三騎士達も婚約者を作らなかった。今は状況が変わったが、彼らにはまだ婚約者がいない可能性もある。好意を抱いていると伝わり、言い寄られることになったら、それはそれで面倒だ。
だがキャノスは……。
婚約者がいる。言い寄られる心配もない。
となると、想い人はキャノスで決定だろう。
キャノスがヴァンパイアと魔法使いのハーフであることを、メルクリオはかなり嫌悪していた。キャノスにデンドロビウムの花を贈ろうとしたとメルクリオが知れば、激怒しそうだ。
だが、カーネリアンは途中からあの場に加わったので、キャノスがハーフだと知らなかったで押し通せると踏んでいた。いざとなればたっぷり吸血し、昇天させてしまえばいい。そう考えた。
そして俺に、キャノスにデンドロビウムの花を贈りたい、告白をしたい、と打ち明けた。そのため仮面舞踏会に招待したい、という提案につなげた。しかも、キャノスだけ招待するのは、あからさまであるし、みんなを差別しているようだと告げると、俺は納得した。結果、全員を招待することでまとまった。
すっぽかされないよう、招待状は俺に渡した。
バーミリオンを必ず連れてくるよう、念押しもした。
メルクリオが来ないか心配されたが……。
会場に着いたら早々にメルクリオがいるVIP用の個室を訪れ、吸血で意識を失わせるつもりでいた。いつも以上に魔力を注入し、そう簡単に目覚めないようにするつもりだ。
ここまでをカーネリアンが一気に語ると、ベリルが尋ねた。
「仮面舞踏会で偶然を装って近づき、ダンスに誘い出し、自分の正体を明かそう、そう兄上は考えていたのではないのですか? なぜバーミリオンをさらったのです?」
その問いにカーネリアンは目を閉じ、ため息をつく。
「ベリルも分かるだろう? レッド家の当主として生きるなら、あらゆる可能性とその対処法を考えろと、父上から習わなかったか?」
片目を開けたカーネリアンが、ベリルを見た。
「それは父上からよく言われています。おかげで何が起きても動じなくなり、瞬時に対応できるようになりました」
「同じことだよ。あの仮面舞踏会でバーミリオンと会った時、どんなことが起きるかを考えた。そして様々なプランを用意した。その中のプランの一つに、バーミリオンをさらう、があった。だからあの場で咄嗟に眠り薬をバーミリオンに飲ませることもできたし、逃走経路も考えていたから、実行に移すことができた」
……ロードクロサイトの教え、すご過ぎる。それを実践できているカーネリアンもすごい。ベリルも間違いなくそうしているのだろう。
「兄上、そうではない。なぜさらったのか、と聞いているのです」
「それは……」
カーネリアンの頬が少し赤くなった。
「兄上!」
「それは……俺が、拓海に嫉妬したからだ」
……俺?
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