69:や、やめて、キャノス
こんなに怒らせたら、アンは何も話さないのではと思ったその時、キャノスの牙がさらに深く首筋に入り込んだ。吸血はしていないが……。
バーミリオンが「あっ……」と小さく声を漏らした。
俺は何度も吸血されているからよく分かる。
血を吸われなくても、牙が深く食い込んだ瞬間、魔力は流れ込んでいるはずだ。
頬が赤く染まり、口は少し開いたままで、バーミリオンの瞳は潤んでいる。
魔力が巡っている。間違いない。
未婚であり、騎士であるバーミリオンは、吸血なんてされたことがないだろう。実際今も吸血はされていないわけだが、魔力を注がれたこともないはず。
初めて巡る魔力の快感にただただ驚き、意識でコントロールするなんて、思いつきさえしていないだろう。
魔力がもたらす快感に震えるバーミリオンを見て、アンの顔色は、青ざめた状態から真っ赤に変わっていく。
ロープで縛られた両手が震えている。
……ものすごく、怒っている……。
その時。
キャノスの左手がゆっくり動き、バーミリオンの左胸をそっと包み込む。
魔力の注入は続いているが、吸血をしていないので、量はそんなに巡っていないはず。
つまり、魔力による快感がゆるく体を巡り、でも五感は正常という状態。
だから胸に触れられた手の感触に、バーミリオンは瞬時に反応することになった。
「や、やめて、キャノス」と声を出したが、体を巡る快感でその声は掠れ、甘い囁きになっている。
「キャノス!」
アンが腹の底から声を出し、キャノスを怒鳴りつける。
同時に、手足を縛っていたロープは、引きちぎられていた。
拳を振り上げたアンが、カウチソファから立ち上がる。その拳はベリルの手で止められ、ゼテクの魔法で体の動き自体も封じられた。
「手足を拘束していたロープは、ただのロープではない。魔法で強化されたものだ。それを魔法も使わずに瞬時に引きちぎる怪力。これは魔法使いの力ではない。アン、もうこれで正体はバレた」
ベリルは静かに告げる。
「本当に身内の恥さらしだ。カーネリアン……兄上、なぜこのようなことをしたのか、話していただこうか」
アンは、変装し、魔法薬で声を変えたカーネリアンだった。
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