68:彼女は人質だ
アンは目を開け、自分が取り囲まれている状態にすぐに気づいた。
「さて。ここには二人の魔法を使える者と、三人の魔術が効かない体質がいる。そして魔力が強いヴァンパイアも揃っている。そして彼女は人質だ」
ベリルはそう言うと、バーミリオンの横に立つ。
細い指をバーミリオンの体のラインに沿って走らせると、豊満なバストにも指が触れた。
その瞬間、バーミリオンがビクッと体を震わせ、見ている俺まで心臓が跳ね上がる。
「もし、余計なことをすれば、彼女の血を吸う」
ベリルはキャノスに目配せをする。
キャノスはバーミリオンの耳元で「ごめんよ、バーミリオン」と言うと、背後に回り、バストの下に右腕を回して両腕を押さえ、首筋に顔を近づけた。
いつでも吸血できる体勢だ。
「状況は掴めたと思うので、話をしようか」
ベリルがリマを見た。リマは頷き、アンの口から布をはずす。
アンは無言でベリルを見た。
この場の主導権をゼテクではなく、ベリルが握っている様子に、不思議そうな顔をしている。
「……あなたは誰なんですの?」
「クレメンスの婚約者だ。そういうお前は何者だ、アン? カーネリアンと、どんな関係だ?」
ベリルがアンの目をじっと見て尋ねる。
「答える必要がありまして?」
「大ありだな。カーネリアンのことをどこまで知っているか、洗いざらい話してもらわないと」
「……別にただの知り合いですわ」
「ただの知り合いがヴァンパイアの誘拐を手引きするのか?」
「……」
「話さないなら……」
ベリルがキャノスを見る。
キャノスの牙がバーミリオンの首筋に触れた。
片方の牙から、血が一筋流れ落ちる。
「待ちなさいよ! キャノス、あんた騎士でしょ! 仲間の騎士を吸血するなんて許されないわよ! 騎士としての誇りはないの!」
アンが青ざめて叫んだ。
キャノスは牙を立てた姿勢から動かず、周りのみんなも一言も発さない。
「カーネリアンとはいつどこで知り合った? どこまで彼のことを知っている?」
アンは苛立ち、ベリルの質問を無視した。
そしてバーミリオンの首筋から牙を抜かないキャノスに向け、大声で怒鳴った。
「キャノス、バーミリオンから牙を抜け!」
命令口調のアンに反抗するかのように、キャノスのもう一本の牙から、血の筋が流れ落ちる。
アンの瞳が怒りで大きく見開かれた。
「質問に答えぬのか?」
「うるさい!」
アンがベリルを一喝した。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『や、やめて、キャノス』
『真相』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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