60:ずっとあなたとキスしたかった
目覚めは、唐突にやってきた。
耳元で声が聞こえ、目覚めた瞬間に口の中に苦い味を感じ、眉をひそめる。
と同時に水差しから水を送り込まれ、慌ててそれを飲んだ。
自分に水を飲ませているのは、アンだ。
水差しが口から離れた瞬間、バーミリオンが声を出そうとすると、アンはバーミリオンの唇に指を当てた。
「声をだしてはダメよ。気づかれてしまいますわ」
喉を傷めているのだろうか。アンはやけにハスキーな声をしている。
だが今はそんなこと関係ない。
バーミリオンは、アンが自分を助け出そうとしているのだと思った。
手足は布で縛られていたが、これも外してもらえるのだろうと思い、おとなしく声を出すのを止めた。
だが、アンはバーミリオンの口に布を噛ませた。
助けてくれるわけではないのか……⁉
そう思った時には、既に遅かった。
暴れようとするバーミリオンを、アンは静かになだめる。
「落ち着いて、バーミリオン。自分が今、どういう状況か知りたいのではなくて?」
それは確かにそうだ。
バーミリオンは一旦暴れることをやめた。
バーミリオンが落ち着いたと分かると、アンはホッとした表情になり、ベッドに腰を下ろす。
手足を縛られたバーミリオンは、体育座りの姿勢で、ベッドでアンと並んで座ることになった。
「カーネリアンと再会できて、嬉しかったかしら?」
アンが探るようにバーミリオンを見る。
嬉しかったか……?
嬉しい云々以前に、驚くことばかりだった。
冷静に考えれば、彼に仕えていた騎士として、主の無事を喜ぶべきなのだろうが……。
思わず考え込むバーミリオンを見て、アンは焦った表情になる。
「あ、もしかして、突然抱き寄せられたり、キスをされたりして、驚いたのかしら?」
バーミリオンは力強く頷いてから、なぜアンがそのことを知っているのかと感じた。
だが仮面舞踏会の会場にアンもいたのだから、どこからか見ていたのかもしれない。
いやそもそもカーネリアンとアンは、どのような関係だ?
「バーミリオン、聞いています?」
アンがバーミリオンの顔をのぞきこむ。
全く聞いていなかったと気づいたアンは、ため息をつき、バーミリオンを見た。
「カーネリアンがキスをしたのは、魔法発生装置である魔法薬を、眠り薬を使い、あなたを眠らせるためだったのよ。でもそれだけじゃない。カーネリアンは……ずっとあなたとそうしたかったのですわ……」
アンの言葉に思わず、バーミリオンは「えっ」と声を出していた。
でも布を噛まされていたので、その声はくぐもって「ぐえっ」という呻き声のようになっている。
「驚いたわよね。当然だと思いますわ。だってあなたは男の騎士として、カーネリアンに仕えていたのですから」
乱れたバーミリオンの髪を指ですくって直しながら、アンは静かに語る。
「カーネリアンは、あなたが女性であると、気づいていたのですよ」
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『一番見られてはならない姿』です。
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