35:キスって、するのもされるのも気持ちいい
朝、目覚めた瞬間から。
期待をしていた。
昨晩、ベリルはバスローブを着たまま眠ったはずだ。
バスローブは、はだけやすい。
ということは今、ベリルは……。
ベリルは俺の方を向き、静かに目を閉じている。
こうやって見てみると、睫毛もワイン色だ。
しかも長くて綺麗にカールしている。
眉毛も黒に近いワイン色をしていた。
可愛らしい寝顔に、つい見とれてしまう。
掛布団をめくり、バスローブがはだけていないか、見るつもりでいたが……。
こんな寝顔を見たら、悪さなんてできない。
代わりに、以前ベリルがしてくれたように、おでこにキスをしてみる。
サラサラのワイン色の前髪を優しく持ち上げ、デンドロビウムと同じぐらい白い肌に、ゆっくりキスをすると……。
……。
キスをされたわけではなく、キスをしただけなのに、全身が熱くなり、体が震える。
心音が高まり、思わずため息が漏れる。
キスって、するのもされるのも気持ちいい……。
幸福過ぎる朝の目覚めだった。
◇
朝食の後、データの確認作業を俺達にまかせると、ゼテクは再び役場に向かった。
データの確認作業は確実に進んでおり、絞り込みは完了しそうだ。
その中に、気になる人物も何名か出てきている。
でもそれが正解につながるとは限らない。
次の一手のために、テルギア魔法国に暮らすヴァンパイアの情報を、ゼテクは役場で集めるという。
テルギア魔法国は、魔法使いの国。
でも魔法使い以外の種族が、住んでいないわけではない。数は少ないがヴァンパイア、ライカンスロープ、人間も暮らしている。カーネリアンがヴァンパイアとしてこの国で暮らしている可能性も、ゼロではない。
ヴァンパイアとして届け出がでていれば、かなりの前進できるのだが……。
ゼテクが出かけ、残ったメンバーでデータを確認したが、これといった発見は何もない。
だが、昼食に合わせ宿に戻ったゼテクが、有力な情報を披露してくれた。
「役場からの帰り道で、古い友人に会った。昔は港の入国管理局に勤めていた奴じゃ。わしがヴァンパイアの情報を探していると言っていたら、思い出してくれたことがある。そやつが言うには4年前、大層な美青年のヴァンパイアに会ったという。なぜそのヴァンパイアのことを覚えていたのかというと、名乗った名前が、個人証明書の名前と一致していなかったからじゃ。レッドの姓を名乗る、ワイン色の髪に赤黒い瞳のヴァンパイアだと言っておった」
これは俺達にとって、とても意味のある情報と言える。
カーネリアンが確かにテルギア魔法国にやってきた証拠を、発見したようなものだからだ。
ベリルに聞いた話だと、魔女にさらわれたカーネリアンは、空路でテルギア魔法国に入国したのではと考えられていた。夜間に飛行すれば、目立たずに移動できる。その場合、ウルフ王国との国境沿いにある、入国管理局経由で入国するのが最短ルート。だからロードクロサイトも、そちらを重点的に捜索させている。
もし空路でなければ、車を使って少人数で移動できる、陸路だろうと考えていた。乗船時に、個人証明書と顔の確認が行われる船での入国は、ほぼ除外されていた。つまり、あまり捜索の手が伸びていない。
だからカーネリアンの入国ルートが分かったことは、大きな収穫だ。
「午後はわしとジャマールで、入国管理局に足を運んでみる。あそこは役場とは比べものにならんほど、セキュリティレベルが高いからのう。役場のように簡単にはいかんかもしれんが」
入国時に使った偽名がなんであるか分かれば、役場の届け出データと突き合わせ、現在の居場所をつかめる可能性が高まる。
これで一気にカーネリアンに近づけるかもしれなかった。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『いざ、仮面舞踏会へ』
『今日はボクがお相手をしよう』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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