34:デレツン
洗面所へ向かうベリルの後を、慌てて追いかける。
ワインクーラーにベリルが水を注ぐ間、花束についたリボンをほどく。
「……ベリル、一人でワインを一本飲んだのか?」
花束のラッピングを解きながら、ベリルに尋ねる。
「家だといつも食後に、みんなで飲んでいるだろう」
ベリルが花束を受け取る。
「まあ、そうだけど」
花束はワインクーラーに、うまいこと収まっている。
「それに昨晩はなかなか寝付けなくてな」
ベリルが手を洗いながら呟いた。
「……何か心配事でも?」
ベリルが瞳を細める。
「分からないのか、拓海?」
「……カーネリアンが見つかるどうか、不安だったのか?」
突然ベリルが抱きついた。
「お前がいなかったからだ」
……!
そう言われてみると、船旅をしていた2週間、ずっとベリルのベッドで夜を過ごしていた。船で俺の部屋は一人部屋だったし、気兼ねなく部屋を空けることができた。でもこの宿はキャノスと同室だったし、なんとなく用がなければベリルの部屋に行くのは……という気持ちになっていた。
もしベリルの部屋で夜を明かしても、キャノスは絶対それを非難することも、誰かに告げることもないと分かっている。でもなんとなく遠慮していたのだ。
だから昨晩ベリルは久々に、一人ベッドで休むことになった。
それを寂しく感じていたのか……。
「寂しい思いを……」
ベリルはすっと体を離すと、花束の入ったワインクーラーを手に、洗面所から出て行ってしまう。
「……」
甘えようとすると、いつも途端にノーマルモードに、ベリルは変わってしまう気がする。
ツンデレならぬ、デレツン。
いちいち船旅のことを思い出したりせず、すぐに俺も抱きしめればよかった……。
そんなことを思いながら部屋に戻ると、ベリルはワインクーラーをテーブルに置き、満足そうな顔をしている。
「……ベリル、初歩的なことを聞いてもいいか?」
「なんだ?」
ベリルが振り返る。
「魔法使いもヴァンパイアも魔力があるんだろう? ベリルの魔力で花瓶を出すことはできないのか?」
「確かに魔力を持つという点では同じだが、魔法使いが使うのは魔法で、ヴァンパイアが使うのは魔術だ。魔力という言い方をするが、それぞれが使う魔力は別物。魔法使いは無から物を作りだせるが、ヴァンパイアではそれができない。だからもし花瓶を必要とするなら……召喚しないとならないな」
そう答えるとベリルは俺の手をとり、ベッドの方へゆっくり歩き出す。
バスローブをベリルが着ているからか、なんだかエッチな想像をしてしまう。
「召喚にも魔力を使うからな。今の私は魔力を使うより、補充をしたい」
ベリルは俺をベッドに座らせた。
「分かっているよ、ベリル」
着ていた寝間着のボタンをはずす。
するとベリルはもどかしそうに肘のあたりまで上衣を脱がし……。
ベッドに押し倒しながら、首筋に牙を立てた。
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次回更新タイトルは
『キスって、するのもされるのも気持ちいい』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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