33:俺が新婦で、ベリルは新郎
今日の宿の食堂での晩御飯は、賑やかなものになった。
防音魔法もかけていなかったので、お祭り気分の宿泊客との交流もあったからだ。
隣のテーブルの魔法使いが話しかけてきたり、酔った人間の三人組が乾杯を求めてきたり。
結局、カーネリアン探しに大きな進捗はない。
だが、目星をつけた魔法使いの調査は進められているし、データの確認も進んでいる。それに明日の夜の仮面舞踏会でも、何か手がかりを見つけられるかもしれない。
だから皆、リラックスして楽しく食事を終えた。
その気分そのままで部屋に戻り、入浴を済ませた俺は、いつベリルから声がかかるかとソワソワしていた。
部屋に備え付けられていた電話が鳴る。
ベリルからだ!
予想通り、今日は回復のための吸血を行いたいとのこと。
俺は二つ返事でベリルの部屋に向かう。デンドロビウムの花束を握りしめて。
エレベーターを降りると、6階の廊下には、相変わらず桜の花びらが、はらり、はらりと舞い落ちている。
花びらが敷き詰められた廊下を、デンドロビウムの花束を握りしめて進むと、なんだかそれは……。
新婦だな。
桜色のバージンロードを歩く新婦。
目の前の両開きの扉も、それっぽいし。
ベリルはとても魅力的な体をしていたし、思わず目が釘付けになる美少女だ。
でもヴァンパイアだから俺なんかより力が強いし、吸血する時、主導権はベリルにある。
だからベリルは……新郎と表現してもいいだろう。
扉をノックする。
この扉の先には新郎が待っている。ドキドキ、なんつって。
ゆっくり扉が開く。
「あ……!」
ベリルは変装を解いて、いつもの綺麗なワイン色の髪に戻っている。
瞳も輝くようなルビー色。
見慣れたベリルの姿に安心すると同時に、その美しさに思わず見とれてしまう。
「これは私へのプレゼントか?」
我に返り、持っていたデンドロビウムの花束をベリルに差し出す。
「そう、俺のベリルへの『純粋な愛』を込めて」
花束を受け取ったベリルは微笑み、俺の頬にキスをした。
一気に全身が熱くなり、心の中でキャノスに感謝する。
「ありがとう、拓海」
花束を持ったベリルは、部屋の奥へと進む。
宿が用意したクリーム色のバスローブは、ベリルの髪の色ともよく合っている。
「あ、ベリル、今気づいたけど、花瓶、ないよな?」
「大丈夫だ。これがある」
ベリルが窓際のテーブルを指差した。
そこにはワインクーラーが置かれている。
「……お酒、飲んだのか?」
「昨晩な」
ベリルはワインクーラーを手に、洗面所へ向かった。
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